前言 の履歴(No.1)


前 言

氷上 正

本書は、平成17年度~平成19年度科学研究費補助金(基礎研究(B)・課題番号17320059)による共同プロジェクト「近現代華北地域における伝統芸能文化の総合的研究」の成果を、論文集という形で刊行したものである。

1980年後半以降、中国の農村芸能を対象とした史学・社会学・文化人類学などさまざまな分野において調査や研究がなされ、地域文化における文化史・芸能史が具体的に解明されつつある。本研究の目的は、こうした一連の研究のなかで、これまであまり取り上げられることのなかった、都市と農村の文化的・人的交流ネットワークの解明、さらに地域間におけるマクロな文化の伝播・影響関係の状況を解明することにある。

具体的には、

  • 伝統演劇劇種の実態と変遷
  • 皮影戯・京劇・梆子戯の相互影響関係と上演・受容の実態
  • 地域内および地域間の文化流通ネットワークの実態

などを解明することにあり、その主な対象としては、清代中期以降に形成され、現在まで演じられている中国北方地域の伝統芸能、皮影戯・京劇・梆子戯などを選んだ。

本研究の特色としては、平成14年度~平成16年度科学研究費補助金(基礎研究(B)・課題番号14310204)「近代北方中国の芸能に関する総合的研究-京劇と皮影戯をめぐって-」における成果をもとに、伝統芸能文化の多様性を、従来の美学的文学・演劇学研究にとどまらず、社会学・音楽学などの隣接領域との連携によって、より立体的な考察ができた点にある。また、これまで蓄積した京劇などの研究文献や台本などを整理し作成した目録は、この方面における研究の有用な資料となるであろう。

また上記研究目的のため、本プロジェクトにおいては、皮影戯と京劇を主要な調査・研究対象とし、フィールドワークとして、芸人や研究者から詳細な聞き取りを行ない、さらに実際の上演活動などを調査・撮影した。さらには、中国及び日本の研究所・図書館・博物館などに保存されている文献や古書市などで購入した貴重な資料のデータベース化を図っている。

このプロジェクトの成果の一部に関しては、ネット上でも閲覧できるようにしており、我々のテーマに関心のある多くの人々が、各自の研究材料として役立ててくれればと思っている。今回のプロジェクトで、計画相応の成果を出すことができたと確信しているが、まだまだ調査・研究すべき点は多々残っている。今後の活動としては、周辺地域や未踏査地域の調査・研究に関して、さらなる展開を期すつもりである。