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*台湾で開催された第17回全国学生創作演劇コンテストについて [#k26f1b8d]
RIGHT:石 光生(山下 一夫 訳)(((訳者注)本稿は石光生「第十七屆全國學生創意戲劇比賽的創意呈現」(『中国都市芸能研究』第二十一輯,2023年,pp.5-31)の日本語訳である。2022年に台湾で開催された学生人形コンテストの紹介と分析を行った本論文は、台湾における学校人形劇の状況を知る材料を提供するとともに、本邦における学生人形コンテストのあり方にも参考になるものと思われる。))
#CONTENTS
#CONTENTS
*一、はじめに [#q57d6bc5]
2010年に高雄市と合併するまで、高雄県は影絵人形劇(皮影戯)・糸操り人形劇(傀儡戯)・手遣い人形劇(木偶戯)の3大人形劇がすべて分布している県であった。高雄県大社郷の東華皮影戯団の5代目の張徳成が、1989年に台湾教育部から栄誉ある「重要民族芸師」の称号を贈られたのも、高雄県が持つ人形劇の裾野の広さや厚みを背景としている。また1994年3月13日に完成した高雄県皮影戯館は、そうした人形劇の保存・普及・研究の重責を担っていった。
しかし伝統的な人形劇は、皮影戯館成立以前からすでに観客を失いつつあった。そこで高雄県文化局は、伝統的な影絵人形劇の上演を積極的に進めるほか、影絵人形劇を根付かせ、近代化を推進するため、1993年に「高雄県影絵人形劇推進育成プロジェクト(高雄県皮影戯推広暨紮根工作計画)」を始動させた。このプロジェクトの目標は次の通りである。
-一、皮(または紙)で作る影絵人形の製作方法を、小中学校の美術の授業のカリキュラムに組み込む。
-二、皮(または紙)で作る影絵人形の劇団を組織し、小中学生に集団行動で求められる団結精神を育成する。
-三、演劇鑑賞教育を進めることで、小中学生がイマジネーションの領域を広げ、さらにそこから潜在的な創作能力も刺激する。
-四、情操教育・芸術教育を進めることで、五育をバランス良く行うという教育の理想を達成する。(石光生1994:31)
上の目標のうち、「演劇鑑賞教育を進めることで、小中学生がイマジネーションの領域を広げ、さらにそこから潜在的な創作能力も刺激する」という部分は、創意工夫の要素を奨励するという意味を含むことになる。ここから高雄県文化局は、全国の公的部門の中で最も影絵人形劇の近代化の創意工夫を進めている公的機関と言えるだろう。このプロジェクトのもとで、1993年に全県教師影絵人形劇研修が行われ、続いて「小中学校影絵人形劇コンテスト(国中小校園皮(紙)影戯比賽)」が開催された。その後さらに部門が増やされて全国大会となり、現在第24回まで開催されている。
こうした、高雄県文化局が行ってきた伝統的人形劇近代化の実験は、すでに多くの蓄積がある。2000年に行政院文化建設委員会がクリエイティブ産業の推進を提唱した後、教育部が2003年1月15日の「台国字第092006026号令」で言語科目・保健体育科目・生活課程・総合活動科目・芸術人文科目の指導要領を公布し、さらに2005年度に第1回「学生創作人形劇コンテスト(学生創意偶戯比賽)」が開催された。当時の教育部が設定した目標は次の通りである。
>芸術教育法と小中9年一貫指導要領の芸術・人文科目部分を、各段階の学校の芸術教育に適用し、人形劇教育を行うことで、生徒が芸術と人文を統合させる力を高め、芸術教育における創作や創造の要素を増強する。(新竹生活美學館2008:14)
この人形劇コンテストは、現行の「小中9年一貫指導要領の芸術・人文科目部分」を組み合わせ、「人形劇教育を行うことで、生徒が芸術と人文を統合させる力を高め、芸術教育における創作や創造の要素を増強する」ことに重点があるのである。したがってここで強調されるべき点は、教員と生徒が協同で人形劇の創作や創造を行い、音楽・舞踏・美術と組み合わせ、舞台芸術の様々な側面を実際に体験・上演することであった。
学生創作人形劇コンテストの参加対象は小学生から高校生で、参加団体は小学生・中学生・高校生の3部門に分かれる。また人形劇は以下の3種である。
-一、手遣い人形劇部門。指人形劇や手袋人形劇など、手袋人形を手で操作するものがこれに属する。内容は上演効果を重視し、またそれ以外の創意工夫も考慮する。
-二、影絵人形劇部門。皮影絵人形劇や紙影絵人形劇など、およそ人形をスクリーンに投影して上演を行うものがこれに属する。内容は上演効果を重視し、またそれ以外の創意工夫も考慮する。
-三、総合人形劇部門。糸操り人形劇・棒操り人形劇・総合人形劇など、第一部門・第二部門に属さないもの、または内容や形式が2種類以上に跨がるものがこれに属する。(新竹生活美學館2008:17)
第5回まで開催された後、伝統的人形劇団体の参加を奨励・保障するために、諮問委員会は人形劇の種類を「伝統」と「近代」の2つに分け、前者を手遣い人形劇・糸操り人形劇・影絵人形劇の3部門とし、後者は元々の手遣い人形劇・影絵人形劇・総合人形劇の3部門を残した(國立台灣藝術教育館 2014:24)。この分類は伝統の側が重視する美的感覚と、近代の側が重視する創意工夫の両方に配慮したものである。各県市教育局は必ず毎年12月以前に予選を終え、その後4月・5月の間に決勝戦を行う。参加を望む団体は得意な人形劇の部門を自分で選び、10分~20分の長さで自分たちのアイディアを存分に発揮する作品を製作して、県市レベルの予選に参加し、優勝者は県市の代表として国立台湾芸術教育館主催の決勝に参加する。
第10回(2014年)の際、「12年国民基本教育」が施行されて、国民の義務教育が高等学校まで延長され、また高校生のための「芸術生活」の教科書も作られた。諮問委員会はこれに基づき、近代的舞台演劇もコンテストの部門に加える決議を行い、コンテストの名称も「学生創作演劇コンテスト(学生創意戯劇比賽)」に変更した。そのねらいは主に以下の通りである。
>芸術教育法と12年国民基本教育指導要領の芸術・人文科目部分によって、各段階の学校の芸術教育を活性化させ、それによって生徒が演劇の創意工夫を学び、芸術と人文を統合させる力を高めるため、学生演劇コンテストを実施する。(國立台灣藝術教育館2014:14)
これに基づき、コンテストでは「三、舞台演劇部門。民国103年度には高校生部門を実施し、民国104年度にはさらに小中学校生部門も追加する」ということになり、舞台演劇部門が加えられた。
本稿は、2022年4月に南投県文化演芸庁で開催された第17回決勝の上演内容を対象に、入賞作で示された創意工夫のあり方について検討を行うとともに、コンテストによる演劇教育の意義と働きについて分析を行うものである。
*二、伝統的人形劇部門 [#naecd3b2]
**(一)手遣い人形劇部門の作品(((訳者注)国民小学は小学校、国民中学は中学校、高級中学は高等学校、高級工業職業学校は工業高等学校、高級商業職業学校は商業高等学校、高級工商職業学校は商工高等学校、高級家事職業学校は家政高等学校、高級農業職業学校は農業高等学校に相当する。)) [#l8051b47]
|番号|学校|演目|備考|h
|1|宜蘭県立孝威国民小学|『温暖世情』||
|2|雲林県立石榴国民小学|『斑鳩媽祖護石榴』||
|3|嘉義市立志航国民小学|『沈香打洞』||
|4|高雄市立港和国民小学|『鳳山県令曹公』||
|5|高雄市立興糖国民小学|『驚世婚約――周乾戦桃花』||
|6|新北市立三芝国民中学|『火焔山悟空借扇』||
|7|新北市立崇林国民中学|『沈香劈山救母』||
|8|雲林県立西螺国民中学|『精忠報国岳飛伝』||
|9|高雄市立中正高級工業職業学校|『烏魚拝媽祖』||
宜蘭県立孝威国民小学の『温暖世情』(暖かい世間)の内容は次の通りである――孝行者の阿宝が、重い病のお祖母さんを助けるため、山の奥深くで薬草の珍珠草を採ってくることにした。山奥では山賊が阿宝を襲ってきたが、阿宝の志に感動して一緒に薬草を探し、土地公の助けも得て、珍珠草を見つけることができた。家に帰ると、山賊がお祖母さんの慈悲深い様子を見て義理の孫となることを申し出て、お祖母さんは喜んで引き受けた。――この劇は「百善は孝を先となす(あらゆる善行の中で親孝行が一番である)」という昔からの道徳を宣揚していて、とても感動的である。
雲林県立石榴国民小学の『斑鳩媽祖護石榴』(&ruby(キジバト){斑鳩};と媽祖が石榴を護る)は、善と悪の戦いの話を描いている。――お腹を空かせた斑鳩の群れが稲を食べてしまうので、お爺さんが追いはらおうとして媽祖に祈ったところ、媽祖が現れ、斑鳩を調伏して自分の眷属にする。一方、石榴山の石猫虎が修行で妖怪になり、人間に化けて旅人を食べていた。農民の李文旦が大八車に文旦を載せて通りかかったところ、石猫虎に襲われ、李文旦と車夫は必死で逃げ出したが、いよいよという時に斑鳩の一群が悪い虎の妖怪を取り囲んだ。早朝に果樹が荒らされたことで、村長が村人に恨まれていたが、李文旦が悪い虎の妖怪の仕業だと伝えたため、村の腕っぷしを集めて退治に赴いた。しかし虎は強く、捕まえることができなかった。それを見た媽祖が虎を調伏し、人々のために害悪を取り除いた。
嘉義市志航国民小学の『沈香打洞』(沈香の修行)は、古典戯曲の『宝蓮灯』に由来しており、またこの話は唐代の戴孚の『広異記』に遡ることができる((物語は次の通りである――天界の仙人である花嶽聖母が人間界に降り、劉錫と夫婦となって、沈香を産む。しかし花嶽聖母の兄の二郎神楊戩は、自分の妹が天界の掟を破ったことを知り、花嶽聖母を黒雲洞に幽閉して、風・火・雨に晒される苦しみを与え、永遠に生まれ変わることができないようにする。この時、海外の散仙である東方朔が天意を知って沈香を弟子に取り、百八変の神術と一竜二虎九牛の力を授け、さらに開山神斧を与え、下山して母親を救うよう命じた。沈香は天界に行って伯父の楊戩をなじり、戦いを挑んで負けるが、楊戩の言い分には従わなかった。なすすべのない沉香に向かって、東方朔は母親が幽閉されている場所を教える。そこで沈香は開山神斧を持って華山に行き、山を割って母親を助け出した。))。『沈香打洞』は多くのバージョンがあるが、志航国民小学が用いたのは長義閣木偶戯団の黄錦章の編になるもので、主な登場人物は天仙花嶽聖母・沈香・二郎神楊戩・東方朔・孫悟空である。この劇のテーマは母親の慈愛と子どもの孝行という徳目である。この学校の上演の特徴は、伝統的な人形で物語を展開しながらも、かなり柔軟な内容にしていることで、劇中では歌を一曲歌っている。最大の創意工夫は、銅鑼・太鼓・梆子といった伝統的な楽器に西洋の楽器を融合させた演奏で、これによって大きな効果を上げている。
高雄市立港和国民小学の『鳳山県令曹公』(鳳山県令の曹公)の内容は次の通りである――清朝道光年間に、鳳山県令に任命された曹謹が海を渡って鳳山にやってくる。しかし鳳山では日照り続きで田畑は荒廃し、飢饉が発生して、人々が苦しんでいた。そこで職人に用水路を作らせ、澄清湖から水を引いて灌漑を行うことを計画する。曹謹自らが工事の監督にあたるが、人夫たちは黒竜母子の抵抗に遭う。そこで曹謹は廟からの提案をもとに、儀礼を行って障碍を取り除き、用水路を完成させる。開通式典には知府自ら参加し、曹謹に用水路をどう名付けるかを聞いたが、曹謹が返事をするより前に、知府は「曹公圳」と命名した。
新北市立三芝国民中学の『火焔山悟空借扇』(火焔山にて悟空が扇を借りる)は、呉承恩の『西遊記』の第59回から第61回の、三蔵法師一行が天竺に向かう途中に火焔山を通り過ぎる、よく知られた話を上演したものである。劇中の創意工夫としては、孫悟空・猪八戒・土地の神・鉄扇公主・牛魔王の会話で、「地球暖化(地球温暖化)」・「瀆職罪(職権乱用罪)」・「頭好壮壮(魚を食べると頭が良くなる)」・「BBQ[焼肉](BBQ[焼肉])」・「拝哥(バイデンのアニキ)」といった現代的表現を使うことで、若い観客にも楽しめ、また解りやすくしていることである。上演を始めて17分半目のところで、牛魔王が急に法会に行く時間だと言い、さらに悟空が「あ、牛のアニキが行っちまうので、芝居はこれで終わりです、審査員の皆様、観客の皆様、申し訳ありませんが、本日はここまでです。西遊記のお話は、来年またここから続きをやります。皆様どうぞごきげんよう、一家団欒でありますように」と言って終わり、面白い作りになっている。
新北市立崇林国民中学の『沈香劈山救母』(沈香山を&ruby(ひら){劈};いて母を救う)は、原作をベースにしながら、さらに物語の語り手で道化役の加添伯を加え、この人物のナレーションで幕を開ける。沈香の師匠の東方朔は霹靂大仙に変えているが、他の人物や物語の内容はおおむね原作どおりである。最後は加添伯が子どもたちに親孝行を薦めて終わり、「百善は孝を先となす(あらゆる善行の中で親孝行が一番である)」がテーマになっている。
雲林県立西螺国民中学の『精忠報国岳飛伝』(精忠報国岳飛伝)は、宋の岳飛が岳家軍を率い、楊家軍の後裔で九竜山に割拠する楊再興を帰順させる物語である。内容は次の通りである――部将の牛皐が軽率な出兵を行って敗退したため、岳飛自ら出陣することとなったが、楊再興の非凡な能力を見て喜び、日を改めて一対一で勝負する約束をした。そして約束の日になったが、岳雲が牛皐の薦めで楊再興を討とうと出陣してきたため、楊再興は納得がいかず、兵を収めて山に帰ってしまった。岳飛は怒って岳雲を斬ろうとしたが、諸将が許すよう説いたため、王貴に命じて岳雲を捕らえ、謝罪させることとした。一方、楊再興の母は大義を理解し、我が子に大宋に帰順するよう勧め、また殺手鐧を岳飛に贈って、我が子が降参させられるようにした。岳飛は大いに喜んで殺手鐧の練習に励み、ついに楊再興に勝って大宋に帰順させた。――この劇は忠と孝とを両方とも全うさせるという内容で、立ち回りが見事な上に、台詞もはっきりしており、また人形の操作も良く、管楽器の場面と打楽器の場面をよくコントロールしていて、最後は「四空仔」の曲で締めくくっている。
高雄市立中正高級工業職業学校の『烏魚拝媽祖』(&ruby(ボラ){烏魚};が媽祖に弟子入りする)の内容は次の通りである――修行によって妖怪となった烏魚大王が、眷属を率いて高雄の旗後(旗津)を襲い、百名の童男童女を海への生け贄にして、神通力を得る。2人の漁師が黒水溝で暴風雨に遭うが、一条の赤い光に救われ、旗後までたどり着く。村長が漁師たちを連れて媽祖廟に行ってお参りをすると、千里眼と順風耳が願いを聞き入れ、童男童女に変身して下界に降り、原因を探る。すると妖怪の子分が2人を見つけて、烏魚大王のもとに連れて行こうとするが、童女は妖怪と勝負して、もし負けたら従うと言う。そして子分は勝負に負け、大王のところに戻ってその旨報告すると、大王は怒って童女たちのもとに行き、元の姿に戻った千里眼と順風耳と戦って負かしてしまう。そこで媽祖は、千里眼に托塔天王李靖のところに行って「天羅」と「地網」の法宝を借りてくるように言い、また順風耳には媽祖の避水珠を持って行くように言って、烏魚大王を誘い出して捕えさせた。すると烏魚大王は漁師たちが烏魚を乱獲していることに腹を立てたのがそもそもの理由だと言ったため、媽祖は烏魚大王に解決を約束した。ちょうど媽祖廟会が開かれ、たいへんな賑わいを見せる中、人々は烏魚が媽祖を拝んでいるのを見て驚く。すると空から媽祖が現れ、漁民たちに烏魚を乱獲してはいけないと説いた。――この劇は(煌びやかな光や音楽などを用いた)「金光偶」で上演され、生態系のバランスと民間信仰の重要性を強調している。
**(二)影絵人形劇部門の作品 [#ydfd595c]
|番号|学校|演目|備考|h
|1|嘉義県立大南国民小学|『拍手戦士』||
|2|台北市立大理国民小学|『你古早孩子都在耍啥』||
|3|新竹県立大肚国民小学|『天穿神話』||
|4|台中市立益民国民小学|『元元的発財夢』||
|5|高雄市立竜肚国民中学|『化蚕』||
|6|台南市立新興国民中学|『西拉雅的夜空』||
嘉義県立大南国民小学の『拍手戦士』(拍手戦士)は、漢人の村人と原住民部落との間の和解の問題を描いている。内容は次の通りである――村に阿建という知恵者がおり、普段は寡黙で、いつも拍手をしていた。ある日、恐妻家の鉄雄が井戸に水を汲みに行ったところ、うっかり井戸に落ちてしまったので、人々は阿建に助けを求めた。阿建はすぐさま道具を出して井戸の上に掛け、鉄雄を救い出した。数ヶ月後、日照りが続いて農作物がすべて枯れてしまい、村を飢饉が襲った。阿建は拍手をしながら考え、隣の村の山中にイノシシが出るので、捕まえようと皆に言った。すると瓜坊が現れたが、阿建が瓜坊を殺すのを阻止しようとしたところ、親のイノシシがやって来て人々を襲い始めたので、皆次々と逃げ出した。阿建は原住民に捕まってしまうが、酋長が阿建に雨乞いをするよう言い、もし成功したら娘の柔柔を嫁がせると約束した。そこで阿建が拍手をして雨乞いをすると、空から雨が降ってきたので、阿建は妻を娶った。
台北市立大理国民小学の『你古早孩子都在耍啥』(あなたの以前の子どもたちは何をして遊んでいたか)の内容は次の通りである――小光がスマホゲームばかりするので、お母さんに没収されてしまい、とても悲しんでいた。それを知ったお爺さんが、阿宝と小光の兄弟に話を説いて聞かせる。強い光の後、お爺さんと孫の3人は、民国40年代のテレビが無かった時代に飛んでいた。当時の娯楽は、手遣い人形劇・歌仔戯・影絵人形劇など、伝統演劇の野外上演だった。まず台湾語で手遣い人形劇と歌仔戯を上演したあと、次に中国語で影絵人形劇『孫悟空鬧東海』(孫悟空東海を鬧がす)の一段を上演し、最後はお爺さんが孫にネットで台湾の影絵人形劇を見るように言って終わる。
新竹県立大肚国民小学の『天穿神話』(天を穿つ神話)は、客家の文化である旧暦正月二十日の天穿節の由来を述べる。内容は次の通りである――お婆さんが&ruby(おもち){麻糬};を作って孫たちに食べさせたあと、今日は男は田を耕さず、女は機織り仕事をせず、丸一日休むと言う。なぜなら、盤古の天地開闢で天に開いた穴を、女媧が五色石を使って塞いだ日だからだと言うが、孫たちは女媧が誰だか知らないと言うので、それではその話を見ていこう、ということになる。すると今度は中国語での上演に変わり、盤古の天地開闢の話が語られた後、影絵人形劇で女媧が泥から動物と人間の男女を作る場面が上演される。続いて、火神の祝融と水神の共工が戦い、負けた水神が怒って天柱不周山を突いたため、天地が崩れて大洪水が起こり、黒竜が人間を食べ始める。これを見た女媧は、すぐに神亀と一緒に黒竜を退治し、さらに補天を行うため、火神・水神・神亀に命じて不周山まで五色石を探しに行かせる。神亀は五色石を見つけるが、石柱を支えようとして犠牲になり、人間界に生まれ変わる。――この劇の創意工夫は幾つかある。第一に、前半の客家語による上演、特に天穿神話の部分で、エスニック・グループの母語教育という教育部の方針に応えると同時に、後半の中国語での上演によって観客が劇全体の内容を理解できるようにしていることである。第二に、この演目は中華民族の神話に基づいていて、また善悪の分別という人として大事なあり方を描いており、正しい教育観に依っていることである。
台中市立益民国民小学の『元元的発財夢』(元元がお金持ちになる夢)の内容は次の通りである――羊飼いの元元は、お金持ちになることを夢見ていた。小百合が、それならお金持ちになったあとはどうするのかと尋ねると、元元は美しいお姫様と結婚するのだと言う。さて、元元が羊の世話をしていると、不思議なランプにつまづく。元元は3回願い事を言ってみたが、反応がないので、怒って捨ててしまう。すると火璃竜が現れ、羊たちを売り飛ばせば次の一歩に進むことができると言う。そこで元元は羊たちを庄屋に売り、火璃竜を呼ぶと、現れた火璃竜が耳を1つ差し出し、これでネズミたちの話を聞くように言う。そこで聞いてみると、ネズミたちは王子がお姫様に鳥を1羽贈って求婚する話をしていた。元元は小百合を連れて琉璃鳥を捕まえに行き、小百合がやめるように言ったのにもかかわらず、捕まえて王子に売りとばし、千金を手に入れる。しかし元元は満足せず、火璃竜が今度は元元に眼を与える。元元は眼を付けて小百合を連れお姫様に求婚に行く。お姫様は百合の花を気に入ったが、仮面を被っている元元は正体がばれて、王宮から追い出されてしまう。そこで元元は夢から醒め、苦労せずに結果だけを手に入れようとしたことを後悔する。
高雄市立竜肚国民中学の『化蚕』(蚕への変身)の内容は次の通りである――客家の子どもの王小雪・晏廷・阿穎は、お互い幼なじみだった。小雪は小さい頃から小白という名前の白馬に乗っていたが、大人になったある日、小雪の父親が商売に出たきり戻ってこなくなったため、小雪は心配で病気になってしまった。父親は家に帰る途中、山賊に襲われて荷物を奪われた上に、人質として捕まってしまい、欲張りな山賊が身代金を要求してきた。家族はお上に訴えたが、役人は山賊を恐れて捜査をしようとしなかった。その時、小雪の母親が小雪の父親を助けてくれた人に小雪を娶らせるという誓いを立てる。すると厩が崩れて、中から小白が飛び出し、山に向かって行って父親を救い出して、山賊を退治した。小雪は小白に餌を与えたが、小白は食べようとしなかった。小雪の父親は人間と馬の結婚を認めなかったばかりか、小白を射殺して皮を剥いだ。ある夜、狂風が吹き荒れ、馬の皮が空に舞い上がり、小雪をぐるぐる巻きにすると、山の奥へ飛んで行ってしまった。人々が探すと、小雪は繭の中から出てきた。その後、人々は心を込めて機織りをした。――この劇は、胸を打つストーリーであるとともに、比較的珍しい、人と馬の恋の物語になっている。
台南市立新興国民中学の『西拉雅的夜空』(&ruby(シラヤ){西拉雅};の夜空)は、オランダ人が安平を攻めた時に、&ruby(シラヤ){西拉雅};族が勇敢に抵抗した史実に基づいている。内容は次の通りである――物語は、烏山頭で人々が漁業と狩猟の生活を謳歌する場面から始まる。長老が広場で、3日後に夜祭りを開催するが、その前に成人の儀式を執り行うので、山で狩りをするように、と言う。&ruby(ワジ){瓦吉};は&ruby(レイワ){涙娃};と恋人同士で、&ruby(ブルン){布倫};と争って勝利を収めて第一の勇士となった。公廨で女性シャーマンが一族とともに阿立祖に招福と駆邪を祈ったところ、阿立祖は12月に災いが来るだろうと預言する。烏山頭では涙娃と&ruby(ワンメイ){万妹};が流れ星を見て、涙娃が願い事を唱える。瓦吉もやって来て加わるが、村に火の玉が落ちるのを目撃する。長老は、オランダ人が道場に火を放った、皆は財産を供出し、女を1人、人身御供に差し出す必要があると言う。瓦吉は若者たちを率いて戦いに出るが戦死し、涙娃は自分からオランダ人への人身御供になることを申し出る。オランダ人は涙娃を美しいと言って、船に押し込み、涙娃は故郷を遠く離れていった。――この劇は、阿立祖崇拜・成人の儀式・公廨の夜祭り・女性シャーマンなど、台湾の西拉雅族の文化的特色を備えている。
**(三)、糸操り人形劇部門の作品 [#k0a3ef39]
|番号|学校|演目|備考|h
|1|高雄市立三埤国民小学|『呂洞賓揣頭脚師仔』||
|2|高雄市立梓官国民小学|『卓大人伝奇』||
|3|澎湖縣立七美国民小学|『七美、七美』||
|4|高雄市立阿蓮国民中学|『一差二錯三巧福』||
高雄市立三埤国民小学の『呂洞賓揣頭脚師仔』(呂洞賓が一番弟子を探す)は、八仙の一人の呂洞賓が蓬萊島にやって来て弟子を取る話を描いている。内容は次の通りである――物語は、漢鍾離と呂洞賓が将棋を打っている場面から始まる。呂洞賓は心を乱して、将棋に負けてしまう。呂洞賓が弟子を取ることを望んでいるのをを知った漢鍾離は、蓬萊島に行くことを勧める。そこで呂洞賓は占い師に身をやつし、艋舺から左営城外までやって来る。道端で休んでいると、2人の強盗に荷物を奪われそうになるが。林阿義に助けられる。呂洞賓は、市場で林阿義が魚を買っているのに出くわし、隠れて見ていると、人々が口々にかれの親孝行を褒めるのが聞こえた。林阿義は家に帰って魚を料理し、母親に食べさせるが、重病の母親は食べるのを拒み、息子は仙人と縁があると言って亡くなる。呂洞賓は餅売りの男に扮装し、一片は一分の値段だが、二片、三片は無料だと言ったところ、人々は争って三片を求めたが、林阿義だけはお金を払って一片を買った。すると欲張った人々はみなお腹を壊したが、林阿義は修行のため呂洞賓と一緒に天界に昇っていった。――この劇の創意工夫は、師匠が良い弟子を見つけるというプロットの中に、有毒な成長促進剤を食べたブタの肉の流通という時事問題を折り込み、演劇の批判的精神を体現していることである。
高雄市立梓官国民小学の『卓大人伝奇』(卓大人伝奇)は、高雄市梓官区城堭廟の初代城堭爺である卓肇昌の物語である。卓肇昌は旧城の出身で、小さい時に牛の面倒の手伝いでいつも悶着を起こし、そのせいで王船でCovid-19の疫病を祓う際の担ぎ手が足りなくなったこともあった。困った土地公と温王爺は、卓肇昌は文曲星の生まれ変わりなので、きちんと育てて欲しい、と卓肇昌の母親に申し入れた。成人後、卓肇昌は挙人となり、都に上って科挙を受けようとするが、横柄な口をきいて悪鬼を怒らせたため、行けなくなってしまった。後に仙人の導きで善を行い、郷里に福をもたらし、亡くなった後は城堭爺として祀られた。――この劇の創意工夫は、地方の道教信仰を発揚しつつ、王船送りの習俗にコロナウイルスの時事問題を盛り込んだことで、その上に中華文化の城堭信仰や、人々の団結精神を説いた内容は、賞讃に値するものと言えよう。
澎湖県立七美国民小学の『七美、七美』(七美、七美)は、明の嘉靖年間に倭寇が大嶼島に侵入した際、島の7人の美女が井戸に身を投げて死んだ話を描いている。内容は次の通りである――幼なじみの蔡欽と昭君は成人後に夫婦となった。ある夜、倭寇が襲来して島民を殺害し、昭君や思君など7人の美女が貞節を守るため井戸に身を投げて死んだ。程なくして井戸から七本の木が生えてきて、良い香りがする白い花を咲かせた。1949年に第4代県長となった劉燕夫の命で塚が立てられ、また7人の美女の貞婦を記念して大嶼郷を七尾郷と改名した。
#ref(22shi-1.jpg,,図1 澎湖七美国民小学の『七美、七美』,50%)
高雄市立阿蓮国民中学の『一差二錯三巧福』(一に遣い、二に間違い、三に福来たる)は、数百年前の疫病の被害を描いている。内容は次の通りである――たくさんの難民が大陸の西南山中の山賊寮村に避難した。そこは土地が肥沃で、収穫も豊かであった。大富豪の馮某が薬屋を開き、大きな利益を上げていた。難民の阿浪はお腹を空かせた老母を背負って馮某のもとへ行ったが、追い払われてしまう。しかし通りかかった馬家麵館で女店主に無料で施しをされる。阿浪の母親はようやくお腹いっぱい食べることができたが、倒れてしまう。阿浪は馮某の薬屋へ行って薬を買おうとしたが、途中の山道で海霸と王波という2人の賊が虎に扮して金総管を襲っているのに出くわす。阿浪は金某を助けるが、実は2人の賊は、虎に扮して金某から薬を取り上げようとしていたのだった。金某はその隙に逃げ出すが、3人は義兄弟となる。王波は馬家麵館に忍び込んで煮込み卵を盗み出すが、阿浪がこれは薬膳ではないと言い、3人で一緒に麵館に行って詫びを入れる。3人は麵館の菊姐に感化され、これから善行に励むことを決意する。
*三、近代的人形劇部門 [#z1df36e9]
**(一)、手遣い人形劇部門の作品 [#uf1fa3e3]
|番号|学校|演目|備考|h
|1|桃園市立文山国民小学|『白脚黒猫夢想有一個家』||
|2|新竹市立三民国民中学|『「消」「逝」』||
|3|屏東県私立南栄国民中学|『媽祖伝』||
|4|新北市立新北高級中学|『真愛人間』||
桃園市立文山国民小学の『白脚黒猫夢想有一個家』(白い脚の黒猫が家に住むことを夢みる)は、白い脚の黒猫のLuckyが大きくなるまでの数奇な運命を描いている。内容は次の通りである――Luckyが産まれた時、母猫は難産のために亡くなってしまった。白い脚の黒猫だったため、お祖母さんは孫の阿明に飼うことを許さなかった。しかし土地公廟の鼠たちが食べ物をくれたので、Luckyは生き延びることができ、鼠たちとも友だちになった。Luckyは岸辺で鼠たちが魚釣りをしているのを見て、自分もやってみようと思ったところ、足を滑らせて海に落ちてしまうが、幸いにも人魚姫に助けられる。次に密漁漁船の網にかかってしまうが、鼠たちに救い出される。台風の夜、漁船の海賊たちは遭難してしまうが、Luckyは鼠たちと一緒に船長を助け出し、また阿明はお父さんと再会し、Luckyを飼うことを許される。――この劇の創意工夫は人間・猫・鼠の三角関係の再構築にある。動物愛護を主軸に、迷信打破にまで話を広げ、善悪をはっきりさせたテーマは、深い教育的意義を有している。
新竹市立三民国民中学の『「消」「逝」』(「消」「逝」)は、中学校で頻繁に起こっているいじめの問題を扱っている。内容は次の通りである――あるクラスの不良生徒が女性の担任教員に逆らい、下品な言葉で侮辱した。担任教員は林級長に、クラスの秩序をきちんと管理するよう言ったが、うまく行かなかった。次に公民の女性教員の授業でも、同じように不良生徒が侮辱したため、林級長に不良学生の学務課での処分を依頼した。夜、不良生徒は林級長を屋上まで連れ出して暴行を加え、追い込まれた林級長は飛び降り自殺をする。林級長の母親は、我が子が死んだのを知ってひどく心を痛め、いじめ反対運動を展開し、学校と保護者たちの事なかれ主義を批判する。――この劇の創意工夫は、教育制度が生徒間のいじめの問題を解決できないことを批判するところにあり、またスクリーンに投影された凶暴で残虐な場面は、見る者の胸に強く突き刺さる。
新北市立新北高級中学の『真愛人間』(愛する世間)の内容は次の通りである――小真と小胖はクラスメートだった。小真は絵の才能があったが、お父さんが失業し、お母さんも病気になったため、小真はお母さんにご飯の作り方を習った。程なくしてお母さんが亡くなると、小真は家に帰って晩ご飯を作る。お父さんが仕事を終えて帰宅すると、晩ご飯ができていることに驚く。母の日の朝、小真はお母さんが好きだった紫の薔薇を花屋に買いに行った。店主は小胖のお母さんで、息子のクラスメートだと知っていたため、小真にタダであげようとしたが、小真のお父さんがやって来て花の代金を払い、小真を墓まで連れて行って、亡き妻を偲んだ。小真はお母さんを思い、大声で泣いた。親を慕う娘の気持ちに、天地も一緒に悲しんだ。
#ref(22shi-2.jpg,,図2 新北市立新北高級中学の『真愛人間』,50%)
屏東県私立南栄国民中学の『媽祖伝』(媽祖伝)は、林黙娘の出生から媽祖になるまでを描いている。林黙娘は小さい頃から頭が良く、お兄さんは勉強が苦手だったが、彼女は七歳の時に弁当を届ける傍ら、先生が論語を読むのを聞いて暗唱してしまった。程なくして玄天道長が林黙娘に会い、道縁があることを知って、彼女に密法を授け、学ぶように言った。お母さんが林黙娘に布を被せると眠ったが、夢の中で林黙娘の魂は海まで飛んでいき、船で魚を捕っているお父さんと2人のお兄さんが2匹の妖怪に襲われているのを見た。なんとか上の兄を救い出したところで目が覚め、2匹の妖怪と話し合おうと決心する。話し合いは腕比べに発展し、2匹の妖怪は降参して配下となり、千里眼と順風耳になった。かれらは林黙娘の父親が遠く離れた小島で無事にいることを、法力によって知る。――この劇の創意工夫は、楽隊が演奏する様々な楽曲をそれぞれの場面と組み合わせることで、良い効果を上げていることである。
**(二)影絵人形劇部門の作品 [#m4b25895]
影絵人形劇部門の入賞作とその内容は次の通りである。
|番号|学校|演目|備考|h
|1|花蓮県立水璉国民小学|『艶火春泥』||
|2|花蓮県立靜浦国民小学|『海泣』||
|3|台中市立信義国民小学|『小魔球』||
|4|新竹県立宝山国民小学|『解救。大冒険!!』||
|5|南投県立爽文国民小学|『狼来了』||
|6|桃園市立芭里国民小学|『森林裡的糖果屋』||
|7|台南市立海佃国民中学|『異情』||
|8|台中市立清泉国民中学|『第三個願望』||
|9|宜蘭県立文化国民中学|『黒髮』||
|10|彰化県立秀水国民中学|『等不及成為獅子王』||
|11|高雄市私立中山高級工商職業学校|『蛻変』||
花蓮県立水璉国民小学の『艶火春泥』(艶火春泥)は、清の総兵である呉光亮が原住民の&ruby(サキザヤ){薩奇莱雅};族と&ruby(クバラン){葛瑪蘭};族を虐殺した「タコボワン事件」(Takubuwa a kawaw)と、薩奇莱雅族の「火神祭」の由来を述べている。全劇は11幕に分かれている。内容は次の通りである――最初に長老が登場し、上演が始まる。薩奇莱雅族の頭目のコモド・パリク(Komod Pazik)とイセプ・カナサウ(Icep Kanasaw)が結婚する。清の総兵が軍を率いて薩奇莱雅族を火攻めにしてきたので、頭目と妻は一族を遠くに避難させ、自分たちは残って清と戦う。夫婦は清の総兵に処刑されるが、長老が最後に、薩奇莱雅は艶火の中から甦る春泥である、と言って終わる。――この劇の創意工夫は、大スクリーンでフルカラーの叙事詩を上演し、また上演者が紙の人形の頭を被って清軍や原住民を演じるところにあり、また中国語で上演することで観客に話を理解させており、火の光の効果も良くできている。
#ref(22shi-3.jpg,,図3 花蓮県立水璉小学の『艶火春泥』,50%)
花蓮県立静浦国民小学の『海泣』(海泣)は、&ruby(アミ){阿美};族と海岸の清掃の話である。内容は次の通りである――海洋汚染のせいで海竜太子が病気になったため、海竜王は怒って人類に復讐することを決意する。小学校の先生が生徒たちを海岸に連れて行って一緒に清掃を行うが、馬耀は掃除が嫌いで、拾ったゴミをばら撒く。すると阿美族の海神にぶつけてしまい、蟹将に捕らえられる。馬耀が失踪して3日目、女性シャーマンが馬耀の家で占いを行い、海を指さす。一方、海竜王は馬耀を尋問し、傷ついた鯨やオットセイを証人として連れてくる。馬耀が処刑されそうになった時、海神が法力で馬耀を逃がすが、実はすべて海神と海竜王が仕組んだ芝居だった。馬耀は環境保護の大切さをようやく理解する。――この劇の創意工夫は、頭に被る様々な人物や海洋生物の着ぐるみを非常に精巧に作っており、また環境保護のテーマも強く打ち出していることである。
台中市立信義国民小学の『小魔球』(小魔球)は、小魔球が人々の願いを叶える話である。内容は次の通りである――小魔球が小智に願い事はないかと言うと、小智は拒んで逃げた。小魔球が次に里長に会うと、オフィスと住居が狭く、住民に満足なサービスができないので、大きな屋敷が欲しい、と言った。そこで大きな屋敷を用意すると、里長は喜んだが、住んでみると広すぎて、オフィスや食堂、トイレに行くのに迷ってしまい、怒って屋敷を放棄した。小魔球が次に会った美鳳は、グルメが大好きで、食べきれないほどの美食を所望した。ところが美鳳は、腹いっぱい食べすぎ、もう食べたくない、と言った。続いて小魔球は、配達員の阿宝に会った。阿宝は自転車で食べ物を届けていたが、車があればもっと早くお客さんに食べ物を届けられるのに、と言った。小魔球がフェラーリをプレゼントすると、阿宝は届け先の場所を通り過ぎてしまい、車を放棄した。小智が子どもたちを連れてくると、里長は大きな屋敷に子どもたちを住まわせ、美鳳は子どもたちに美食を食べさせ、阿宝は車でたくさんのワクチンを取ってきたので、皆は満足した。――この劇の創意工夫は、3つのスクリーンを運用し、順調な場面転換を行っていることである。一致団結して疫病と戦うことや、大事に物を使うこと、物資を節約することなどがテーマとして強調されている。上演の特色としてラップを使っていることが挙げられ、例えば小魔球の台詞に次のようなものがある。「今日のお前はとてもlucky、luckyにも会ったのがme、それとは違うよgoogle meet、お前にあげるさwhat you need。(今天你很lucky,lucky遇到me,不是google meet,賜給你what you need。)」
新竹県立宝山国民小学の『解救。大冒険!!』(助けよう。大冒険!!)は、2044年に北極の氷が溶け、蚊によってウイルスが全世界に拡散したため、科学者たちが薬を探しに行く話である。内容は次の通りである――小孔明は人類が疫病で大きな被害に遭うことを予測する。果たして人々は疫病に罹り始め、流言飛語が飛び交う。非政府組織(NGO)が、科学者や様々な分野の人材を集め、夜明珠という薬を探すキャラバンを組織する。かれらはギザのピラミッドでお札を見つけ、また南米のジャングルで麻酔剤を作る薬草を見つける。そしてマリアナ海溝で夜明珠を発見し、疫病の問題を解決する。――この劇の創意工夫は、大型スクリーンを物語の上演に用い、上演者が頭にかぶり物を被って出演している点である。広い構図の中で、人形の造形は細やかで、かつ多様である。人類による大地と海洋の汚染に対する批判というテーマは、観客に反省を促すに足る内容となっている。
南投県立爽文国民小学の『狼来了』(狼が来た)は、狼と3匹の子豚の話である。内容は次の通りである――冒頭の場面では、3匹の子豚を襲った罪で狼が牢屋に入れられている。そして場面は変わり、放課後、クラスメートたちが狼に、一緒に図書館に行ってゲームをしよう、と言う。しかし狼は、翌日がお祖母さんの誕生日なので、家に帰ってケーキを作る、と言って断る。狼は一生懸命ケーキを作り始めるが、砂糖が見あたらなかった。そこで長男の子豚に砂糖を借りに行ったが、長男の子豚はエビの胡椒炒めを作っていたため、狼はアレルギーを発症し何度もくしゃみをして、長男の子豚の草の家を吹き飛ばしてしまった。次に狼は次男の子豚のところに砂糖を借りに行ったが、木屑に反応してまたもくしゃみをしてしまい、木の家を吹き飛ばしてしまった。三男の子豚はレンガの家の中にいて、警察に通報したため、狼は逮捕された。テレビのニュースはこの事件について、狼が殺人犯だとデタラメを報じたが、警察の入念な調査の結果、狼は自由の身となり、また砂糖1袋をプレゼントされた。狼はケーキを作るという願いを叶えた。――この劇の創意工夫は、フェイクニュースを伝える台湾のメディアを批判しているところにあり、十分な教育的意義がある。照明と音楽も、良い効果を上げている。
台南市海佃国民中学の『異情』(異情(((訳者注)「異情yìqíng」(異なる思い)は、中国語で同音となる「疫情yìqíng」(コロナ禍)と掛けた表現である。)))は、コロナウィルス(Covid-19)の話である。内容は次の通りである――気象観測家が流星の落下を観測し、災難がやってくることを予測する。咳や発熱の症状が出てから診察するという現代医療の対処療法と、昔の医者の治療方法が対照され、現代と昔の疫病の状況が交互に展開する。昔の場面では、お上が城内を封鎖し、城外に木造の小屋を建てて感染者を収容する様子が描かれ、現代の場面では、医療スタッフが防護服を着てCovid-19の患者の治療にあたり、スタッフの努力でウイルスを撃退する様子が展開される。――この劇の特徴は、フロアに接する大スクリーンを設置し、演技する学生たちに後ろから光を当てて上演を行うと同時に、人形劇も自然に挿入していることである。ウイルスとの戦いについて、昔の場面は大陸で実施された都市封鎖政策を象徴している。冒頭では、「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」という、フランスの実存主義作家であるカミュの『ペスト』の名言が引用されている。
#ref(22shi-4.jpg,,図4 台南市海佃国民中学の『異情』,50%)
台中市立清泉国民中学の『第三個願望』(3つ目の願い)は、独居老人が老年層のコミュニティへ段々と前向きに溶け込んでいく様を描いた話である。内容は次の通りである――阿勇は、蜘蛛の巣が張った古い家に独りで住み、リクライニングチェアに座ってテレビを見ていた。しかしテレビの受信状態が悪化し、映らなくなってしまった。そこに阿文が訪ねてきて、理事長主催の大根抜きの活動への参加を約束させられる。そこで阿勇が畑に行くと、何人もの老人たちが大根を抜いていたが、阿勇はそれを見て何も言わず家に帰ってしまった。数日後、阿勇はカラオケに誘われるが、人々が「愛拚才会贏」(((訳者注)「愛拚才会贏」(努力すればきっと勝てる)は、陳百潭の作詞・作曲、葉啓田の歌で、1988年に発表され大ヒットした台湾語曲で、カラオケなどでもよく歌われる。))を歌っているのを見て、一緒に歌うかどうか考えた末に、結局家に帰ってしまった。帰宅後テレビをつけたが、やはり受信状態が悪く、テレビを叩いたところ、よろめいて倒れ、頭を打ってしまった。ちょうどそこに理事長が訪ねてきて、急いで救急車を呼んで病院に担ぎ込んだ。病院側は阿勇が貧血で倒れただけだと言い、数日で退院となった。家に帰るとたくさんの人々が祝いに来てくれ、何か願いはないかと言われたので、阿勇は2つ目の願いとして、台湾のコロナ禍が早く終わって欲しい、と言った。続いて清泉国民中学の先生と生徒が老人をインタビューする画面が映り、最後に阿勇が独り暮らしの阿美おばさんを訪ねる場面になって、善行の循環が起きていることが示される。――この劇の創意工夫は、教員と生徒が実際に学校の外に行き、老人たちの生活に関心を持ち、重要な部分は劇の中に織り込むことで、大きな効果を上げている点である。内容は、「吾が老を老として以て人の老に及ぼす(自分の家の年長者を敬い、それを他人の家の年長者にまで広げる)」(((訳者注) 『孟子』巻第一・梁恵王章句上に見える言葉。))という古訓を体現している。また左・右・中央の3つのスクリーンを弾力的に用いることで、同時にいくつもの美しい画面を展開している。
宜蘭県立文化国民中学の『黒髪』(黒髪)は、かかしが本当の愛を探し求める話である。内容は次の通りである――黒髪のかかしが母親の魔法で口がきけるようになり、美少女の姿に変身して自分でものも考えるようになる。しかし本当の女性になるにはアウディのキスが必要だった。黒髪はアウディの父親のクチンを探しあて、かれは吝嗇な成り上がりの社長だったが、黒髪が尋ねてきた理由を知り、黙って許す。アウディは失恋して海辺でヤケ酒を飲み、海に飛び込んで自殺しようとしていたところを、黒髪に止められる。黒髪はアウディに、ガールフレンドのファファを一緒に探しに行ってあげると言い、ファファの住んでいるところを突き止めるが、ファファには別に恋人ができており、黄色いリボンを窓の外に掛けるという約束を果たしていなかった。黒髪はアウディにここを立ち去ろうと言う。黒髪は家に帰った後、ブレスレットを母親に返したが、母親は彼女に黄色いリボンを与え、黒髪の願いが叶ったことを祝った。――この劇の創意工夫は、青少年が直面する問題を助け合いで解決していくというテーマが示されていること、頭にかぶり物を被って上演を行ったり、ブルーライトの投射を基本としながら黄色いリボンや赤い炎など様々な色を用いてアクセントを付けていることである。そのため、上演全体が見て楽しいものになっている。
#ref(22shi-5.jpg,,図5 宜蘭県立文化国民中学の『黒髪』,50%)
彰化県立秀水国民中学の『等不及成為獅子王』(ライオンキングになるのを待てなくて)は、好奇心旺盛なライオンの子どもがサーカスに入れられてしまうが、最後には自由の身になる、という話である。内容は次の通りである――ライオンキングがライオンの子どもと大草原を歩いていると、サーカスのスタッフ募集の紙が飛んできた。ライオンの子どもが独りで上演を見に行き、人さらいのキツネに騙されて団長に売り飛ばされる。団長は動物虐待の常習犯だったため、ライオンの子どもは動物たちを集め、車でアフリカの大草原に逃げるが、悪い団長たちに囲まれてしまう。そこにライオンキングが百獣を率いて現れ、サーカスの動物たちを助け出す。
**(三)、総合人形劇部門の作品 [#p1562288]
総合人形劇部門の入賞作とその内容は次の通りである。
|番号|学校|演目|備考|h
|1|高雄市立竹囲国民小学|『仙魔聖戦』||
|2|嘉義県立大郷国民小学|『尚好的安排』||
|3|彰化県立潭墘国民小学|『狂想曲』||
|4|宜蘭県立礁渓国民小学|『渓奇!二竜伝説』||
|5|新北市立豊年国民小学|『黒色竜宮』||
|6|桃園市立長庚国民小学|『超級智慧王――人生不卡関』||
|7|屏東県立南栄国民中学|『火鳥』||
|8|台北市立桃源国民中学|『黒狗兄回来囉』||
|9|台南市立後壁国民中学|『飛越・夢的国度』||
|10|新北市私立樹人高級家事商業職業学校|『Oh my God! 我的衣櫃有怪獣』||
|11|桃園市私立至善高級中学|『神霊虹橋』||
桃園市立長庚国民小学の『超級智慧王――人生不卡関』(クイズ王ゲーム――人生にクリアできないステージはない)は、3人の小学生が誤ってクイズ王ゲームの世界に入ってしまい、3ステージをクリアしてようやく現実世界に戻る、という話である。内容は次の通りである――ステージ1はクラシック音楽で、出題者のリサが音楽を流すと、小張がすぐにベートーベンの「運命」だと答えてクリアする。次に2曲目が流れ、小張は許石が編曲し、呂訴上が作詞した「草蜢仔弄鶏公」(バッタが雄鶏をからかう)((訳者注)著名な台湾語歌謡で、幾つかのバージョンが存在するが、中でも作中で挙げられている編曲・許石、作詞・呂訴上のものが代表的である。<ct:><cl:><cf:><cScLineH:><cCJKGTrk:>))だと答えてクリアし、鍵を手に入れて次のステージに進む。ステージ2は国語で、3人はステージをクリアできないガリ勉に遭遇する。出題者の語堂が「花と鳥」の図を示すと、ガリ勉はデタラメを答えるが、辰辰は孟浩然の「春暁」だと答えてクリアする。次に語堂が五言詩の最初の2句を言うと、ガリ勉はまたもデタラメを答えてふざけるが、幸いにも辰辰が李白の「夜思」だと答え、2本目の鍵を手に入れて次のステージに進む。ステージ3は数学で、クリアしたのにもかかわらず、ストーリーが反転し、ガリ勉が魔法使いとなり、3人に危害を加えてきた。そこにクイズ王連盟の守護神であるドラが現れて、ガリ勉を倒し、魔法使いの村に戻るよう言う。3人はようやく現実世界に帰ってくる。――この劇の創意工夫は、場所や場面に必要な絵を背景として投影し、上演者もみな特徴的な人物の扮装をすることで、総合人形劇としていることである。音楽もよくマッチしており、場面の雰囲気の効果を上げている。また音楽・唐詩・数学の出題も教育的意義を現している。
台北市立桃源国民中学の『黒狗兄回来囉』(黒犬のアニキが帰ってきたぞ)は、ある野良犬の悲哀を描いている。内容は次の通りである――黒犬のアニキは、「山頂的黒狗兄」(山の上の黒犬のアニキ)(((訳者注)「山頂黑狗兄」は、1930年にレスリー・サロニー(Leslie Sarony)がヨーデルをアレンジして作った『The Alpine Milkman』が、日本で『山の人気者』のタイトルでカバーされ、1934年に中野忠晴とリズムボーイズのレコードがヒットしたものを、さらに洪一峰が1957年に台湾語でカバーした曲である。台湾ではよく知られた歌となっている。))を歌いながら、純台湾産の犬こそが最も健康で美しいと自負していた。ご主人様に抱えられて家に帰ると、プードル・マルチーズ・ダックスフント・ハスキーが黒犬のアニキをバカにし、またお互いケンカしていた。ある時、犬のモデルが選ばれることになり、管理員がドッグレースを企画した。犬たちは自分が選ばれようと闘志を燃やす。レースが始まると、管理員は参加者を1匹ずつ紹介していくが、次々と負けていき、最後には犬たちを全員安楽死させるほかなくなる。ラストシーンでは、犬たちが1匹ずつ断末魔の叫びを上げる。――この劇の創意工夫は、様々な犬の人形を作って操作し、また上演者が色々な犬のかぶり物を被って演技する様が、いずれも生き生きとしていて、真に迫っている上に、歌や踊りを組み合わせ、リズミカルではっきりとしたテンポになっていることである。最も心を打つのはもちろん、ペットは大事にしようと、観客が反省を促される部分である。
屏東県立南栄国民中学の『火鳥』(火の鳥)は、イワン王子が大魔王と戦い、美月姫を助ける話である。内容は次の通りである――ハンターに捕らえられた火の鳥を王子が助けたところ、火の鳥は王子に3枚の羽根を与え、困った時にはいつでも助けに来ると告げる。大魔王が姫を誘拐し、林檎の木の上に縛り付けるが、王子が側近とともに姫を救出する。姫は捕まった経緯を話し、一緒に逃げる計画を立てるが、王子たちは大魔王と戦って負けてしまう。そこで王子が1枚目の羽根を取り出して助けを求めると、火の鳥がやってきて、王子を逃がす。大魔王は千年の烏の妖怪で、王座の下に隠されている卵を壊さないと勝つことができないため、王子は王宮に忍び込んで卵を見つけ、2枚目の羽根を取り出して火の鳥に壊させた。烏は逃げ出したが、火の鳥は力が尽きてその場に倒れた。王子は3枚目の羽根を取り出して火の鳥を救い、王子と姫は幸せな日々を送った。――この劇の創意工夫は、善は悪に勝つという明確なテーマのもと、中国と西洋の大衆的な音楽を伴奏に用い、上演者の台詞が明瞭で、人形操作もスムーズであり、照明の切替も適切であることである。
台南市立後壁国民中学の『飛越・夢的国度』(飛べ・夢の国境)は、タイムスリップの設定を用いて現代の中学校のいじめの問題を描いている。内容は次の通りである――物語は、宋と金が対峙して岳飛の軍勢が勝利を収め、失われた国土の多くを回復した、というナレーションから始まる。しかし宋の高宗は奸計を盲信し、十二道の金牌で岳飛を呼び戻す。岳飛は仕方なく2人の将とともに大軍を率いて南に引き返すが、途中で暴風雨に遭い、現代の台湾にタイムスリップする。そこではちょうど2人の男子生徒が、告げ口をした女子生徒の娜娜を責め立て、痛い目に遭わせようとしていた。男子生徒は時代劇の撮影だと思い込み、自分も参加しようとする。岳飛たち3人が女子生徒を助け出すと、友だちの阿虎もやって来る。岳飛が自分の正体を明かすと、娜娜は岳飛に決して南へ戻ってはいけない、良くないことが起きると言う。そこに主任教員の偉哥が現れ、生徒多立ちを学校に連れて行って処罰を与えようとしたので、岳飛は偉哥を小突いて追い払う。岳飛は生徒たちを学校まで送っていくと、2人の将とともに急いで時空の道に戻り、自分自身の未来に立ち向かっていく。――この劇の創意工夫は、糸操り人形と手遣い人形の上演を行い、山場が何度もあること、歴史上の人物は自分の運命を変えることができないが、現代の人間は学習によって良い方向に変え、問題を解決し、いじめをやめさせることができるという、明確なテーマを示していることである。
新北市私立樹人高級家事商業職業学校の『Oh my God! 我的衣櫃有怪獣』(Oh my God! 私のタンスに怪獣がいる)は、家庭内性加害の問題を扱っている。内容は次の通りである――ある男がベトナム人女性と結婚し、娘が生まれ、家族睦まじく暮らしていた。しばらくしてベトナム人女性の前夫が、息子が病気だと言って金銭を要求してきた。男はお金を渡さなかったので、ベトナム人女性はアルバイトでその分のお金を稼いだ。娘はそんな母親に不満で、父親と親しくなっていったが、そんな娘に何と父親は性加害を働いた。そんな中、母親が天使の格好をして放課後に娘を迎えに行き、2人の距離が縮まって和解し、お互い助け合うようになった。――この劇の創意工夫は、投影・手遣い人形・上演者の3者を組み合わせて、家庭内性加害の事件を描いていることで、緊張感のあるリズム・照明・音響の組み合わせも適切で、上演者の手脚の動きや人形の操作も優れている。
桃園市私立至善高級中学の『神霊虹橋』(神の虹の橋)は、&ruby(タイヤル){泰雅};族の原住民文化の伝承を題材にしている。内容は次の通りである――お爺さんとお婆さんが自分たちの孫に、ここは&ruby(タイヤル){泰雅};族の土地であり、男の子は狩りを、女の子は機織りをできるようになって、始めて大人の仲間入りをするのだ、と話す。そこでまず、女の子たちに機織りを学ばせた後、お爺さんが孫の男の子を連れて山に狩りに行き、孫が良い狩人になるよう祖先の霊に祈りを捧げる。そしてシリク鳥で占いし(((訳者注)シリクは&ruby(タイヤル){泰雅};語でメジロチメドリのこと。&ruby(タイヤル){泰雅};族はこの鳥を使って鳥占いを行う。))、狩りの吉凶を聞いたところ、吉が出たので、孫は狩りに赴き、イノシシを捕らえ棒にぶら下げて帰ってくる。次は女の子の顔の刺青で、お祖母さんがシリク鳥で占いをすると、やはり吉が出たので、女の子は勇敢にも刺青師の針に耐え、大人の女性として認められる。日本軍が台湾を侵略して来たので、孫の男の子は一族を山の奥深くに避難させた後、腕の立つ若者たちを率いて勇敢に戦い、壮烈な最期を遂げる。孫の男の子は祖先の霊が集う虹の橋の先に行こうとしたが、両手に血が着いているが、顔に刺青がないと言って、蟹の精によって川に落とされ、ワニの餌にされそうになるが、忍びなく思った祖先の霊に助けられる。時は移り、台湾では高速鉄道が通り、携帯電話が普及する中、孫の男の子は虹の橋の先で女の子を迎える。――この劇の創意工夫は、紙の箱で造ったイノシシ・日本軍・シリク鳥などの頭部を上演者が被り、明瞭な台詞に&ruby(タイヤル){泰雅};族の歌や踊りを組み合わせ、優れた効果を上げていることである。
#ref(22shi-6.jpg,,図6 桃園市私立至善高級中学の『神霊虹橋』,50%)
**四、舞台演劇部門の作品 [#z375a8c3]
舞台演劇部門の入賞作とその内容は次の通りである。
|番号|学校|演目|備考|h
|1|新竹市立茄苳国民小学|『老樹之歌』||
|2|宜蘭県立竜潭国民小学|『我是猫也』||
|3|新竹県立宝山国民小学|『童話冒険』||
|4|台中市立葫蘆墩国民小学|『Time's Up』||
|5|台北市立静心高級中学附設国民小学|『神奇玩具屋』||
|6|新北市立江翠国民中学|『完全特優手冊』||
|7|宜蘭県立呉沙国民中学|『冬之慶牛生(歌仔戯)』||
|8|台中私立磊川華徳福実験教育学校附設国民中学|『真相・相』||
|9|新竹市立育賢国民中学|『当梁祝遇上茱羅記』||
|10|台中市立黎明国民中学|『京城謝少』||
|11|宜蘭県立復興国民中学|『如何折好一架紙飛機』||
|12|桃園市立南崁国民中学|『教室裡的范特西 Fantasy』||
|13|台北市私立華岡芸術学校|『Baby Shock』||
|14|高雄市私立中華芸術学校|『明路』||
|15|台東市国立台東高級商業職業学校|『Nia'a'izang 長・程』||
|16|新北市私立荘敬高級工業家事職業学校|『探母』||
新竹市立茄苳国民小学の『老樹之歌』(古い木の歌)は、青蛙たちの成長の物語で、上演は舞踏と歌唱を主軸に展開する。内容は次の通りである――青蛙たちが楽しそうに池で歌って踊っていると、急に雹が降ってきたので、慌ててハスの葉の下に隠れようとする。しかし緑青蛙が大きなハスの葉を独占し、入ってこようとする青蛙たちを追い出したため、皆の怒りを買って絶交される。意気消沈した緑青蛙が山の上に向かって歩いて行くと、樹齢500年の大きな木に出会う。古い木は緑青蛙に、種が鳥によってここまで運ばれ、芽を出して生長し、鳥・ウサギ・リスなどの小動物が住み着いて賑やかになったことを説いて聞かせる。そこで緑青蛙は急いで青蛙たちのもとに戻って謝る。青蛙たちとともに山の上に行ってみると、古木は夜の雷雨で倒れてしまっていた。しかし古い木から新芽が出ているのを見つけたので、蛙たちは動物たちと一緒に一生懸命に水をやり、新しい生命が生長するのを楽しみに待った。――この劇の創意工夫は、大自然における生命の循環を説くことで、命を大切にすること、生き物をいたわることを強調し、また上演は歌舞に近いが、リズムも良く、かつらや扮装も人物の特徴にマッチしていることである。
宜蘭県立竜潭国民小学の『我是猫也』(吾輩は猫である)は、5歳の黒猫の黒金が、最初は鼠を見たこともなかったのに、最後は鼠の天敵にまで成長していく、心の変化を描いている。内容は次の通りである――黒金は小さい時からお金持ちの女性に飼われ、毎日お腹いっぱい食べており、鼠を見たことがなかった。しかし執事が猫を飼う仕事が面倒なことに嫌気がさし、こっそり黒金を売り飛ばした。鼠害に悩まされていた阿福が購入し、黒金に鼠を捕まえさせようとした。鼠たちは空腹で弱っている黒金に、主人が飼っている魚を指して、あれが鼠だと嘘をつき、信じた黒金は一口で魚を食べてしまい、阿福に追い出された。黒金は街をさすらう野良猫となったが、幸運にもお爺さん猫とその孫に出会い、お爺さん猫から武術を習って、鼠たちを退治した。阿福は黒金が手柄を立てたのを知り、すぐに家に連れて帰った。――この劇は黄春明の『我是猫也』を、著作権の許可を取って改編したもので、創意工夫としては、上演者が猫や鼠に扮する姿が非常に写実的で、扮装や化粧がすばらしく、また演技も十分面白いことである。
新竹県立宝山国民小学の『童話冒険』(童話の冒険)は、お母さんを治す薬草を赤ずきんが森へ採りに行く話である。内容は次の通りである――赤ずきんはお医者さんから、お母さんの病気を治すには森で奇蹟果という薬草を採ってこなければならないと聞き、友だちのかかし・ブリキ・ライオンと一緒に森へ向かう。ライオンが荷物の見張り番をしている間に、残りの3人が焚き木を採りに行った際、狼に赤ずきんが食べられそうになったが、ライオンが悲鳴を聞いて駆けつけたため事なきを得る。翌日、一行は湖を船で移動することになったが、ブリキは水を怖がって船に乗らなかった。すると3人は水の妖怪に襲われ、湖の中に落ちたが、幸いにもブリキに助けられる。しかし岸に上がったところで、ブリキが倒れてしまう。ブリキはぜんまいが湖に落ちてしまったのだが、すると湖の神が現れ、落としたのは金のぜんまいか、それとも銀のぜんまいかと聞いてきた。かかしが、どちらでもない、錆びたぜんまいだと答えると、湖の神は錆びたぜんまいを出してブリキを助け、さらに金のぜんまいと銀のぜんまいをかかしに与えた。一行はさらに進み、森に到着したが、守護者の魔竜に財宝をだまし取られた上に、薬草を採りに行くのを封じられた。4人は作戦を練って魔竜を倒し、力を合わせて奇蹟果を採ってきて、赤ずきんのお母さんの病気を直した。――この劇の特徴は、登場人物の扮装がよく似合っていて、人目を引くデザインになっていることである。さらに重要なのは、愛・勇気・犠牲・誠実さといった、人である以上必ず持っているべき美徳を強調していることである。
新竹市立育賢国民中学の『当梁祝遇上茱羅記』(梁山伯と祝英台がロミオとジュリエットに出会う時)は、東西の2大恋愛悲劇が現代において合体する話である。内容は次の通りである――2組の合唱隊がそれぞれ東西の2大恋愛悲劇のあらすじを述べた後、舞台は育賢書院に移る。ここでは梁山伯・祝英台・ロミオ・ジュリエットが学んでいた。先生が唐詩の出題をした時に、祝英台はロミオを、梁山伯はジュリエットを好きになってしまう。先生は怒り、ウイルス感染症の流行を理由に長期休暇の開始を宣言する。祝英台の両親が書院にやって来た際、祝英台は父親にロミオが好きだと伝え、母親もロミオが気に入る。また梁山伯は父親にジュリエットが好きだと伝えるが、ジュリエットの両親が書院に来た時に英語を喋り、梁山伯の両親は聞き取れなかったため、ジュリエットが通訳をした。そのうち双方が諍いを始めたので、月下老人がキューピット・ヴィーナス・パンドラを連れて登場し、事態を収めようとした。月下老人が法術を使うと、皆は目が覚めたが、親たちはけんかを続けたので、月下老人は再び法術を使い、ようやく平静を取り戻した。――この劇は、東西の2大恋愛悲劇を反転させ、中国文化の洗礼を経て、たいへん面白い大団円の喜劇に変えている。演出家の力量は賞賛に値し、舞台の様々な要素も整っていて、上演者も全力であたることで、非常に良い成績を上げた。まさにこの劇の脚本で言っているように、「心に美しさがあれば、見る人や物事は美しさで満たされる」のである。
台中市立葫蘆墩国民小学の『Time's Up』(Time's Up)は、生徒が時間を守る大切さについて描いている。内容は次の通りである――クララは弁論大会に向かう途中、交通渋滞に巻き込まれて遅刻したため、クラスメートたちに非難され、誰にも相手にされなくなった。クララがうなだれてその場を離れたところ、皇后と2人のお姫様がシンデレラを罵倒しているのを目撃する。うなだれたシンデレラをクララが慰めたところ、シンデレラは魔法使いと一緒に童話管理修正委員会に行き、時間の調整をしてくれるよう交渉する、と言う。委員会の国王はシンデレラや委員たちの議論を聞いていたが、アリババと40人の盗賊の戦いがもうすぐ始まるという知らせが来たため、ウサギが人々を引き連れ、金銀財宝が隠されている洞窟の外まで行き、待ち伏せすることになった。アリババは財宝を見つけたが、盗賊たちが洞窟にやって来たため、ウサギたちが迎え撃った。正義が勝ち、アリババも順調に逃げ延びた。すると目覚まし時計が鳴って、クララはお母さんに起こされた。クララは悪夢を見ていただけだと知り、急いで弁論大会へと向かった。――この劇の創意工夫は、時間厳守というテーマに2つの有名な童話をくっつけて喜劇にしたことで、生徒たちに時間を守ることの大切さを説いている。
#ref(22shi-7.jpg,,図7 台中市立葫蘆墩小学の『Time's Up』,50%)
台北市立静心高級中学附設国民小学の『神奇玩具屋』(ふしぎなおもちゃ屋)は、両親が弟ばかり贔屓することに不満を持ったお姉さんのシャーシャが、弟と一緒に部屋でおもちゃで遊ばないことを決め、オルゴールを抱いて寝た。すると音楽が鳴り響き、人形たちが次々と目を覚ました。音楽の妖精が皆を取りなして、皆は家族で、またシャーシャは皆の女主人である、と言った。また、大魔王が3人の女泥棒の人形を遣わせてきたので、皆に気をつけるように、とも言った。女泥棒たちはシャーシャがよい子ではないのを嫌い、シャーシャの手脚を縛り上げた。しかし音楽の妖精は皆と力を合わせて戦い、逆に3人の女泥棒を縛り上げた。すると3人の女泥棒は、戻って大魔王に責められるのを怖がり、一斉に泣き出した。シャーシャは皆に彼女たちを引き取って世話をしようと提案し、投票の結果全員が賛成した。目覚まし時計が鳴り、シャーシャはドアをノックする音で目が覚めた。そこにいたのは弟で、人形で遊ぼうと言ってきたので、良いよ、と言った。――この劇のテーマは、子どもたちのおもちゃの取り合いという問題で、様々な人形を劇のストーリーの中に配置することで、すばらしい効果を上げている。
新北市立江翠国民中学の『完全特優手冊』(完全優勝マニュアル)は、全国コンテストで佳作しか取れなかったある中学校の演劇部が、優勝するためにどんな新作を作るかを考える話である。内容は次の通りである――上演が佳作に留まったことで、演劇部全体に暗い雰囲気が漂っていた。部長・舞台監督・部員たちは、失敗の原因を検討していた。審査委員が「脚本の内容が浅く、台詞は深みが足りず、何が言いたいのか分からない」と評したことを挙げ、脚本が駄目だったからだ、と言う者もいた。また、ミスキャンパスの某が服装や道具にお金を使いすぎたからだとか、あるいはミスキャンパスの某が監督を呼ぶのにお金を使いすぎたからだ、と言う者もいた。しかし紛糾するだけで結論が出なかったため、部長は倉庫に資料を探しに行ってしまった。舞台監督は部員たちに、良い成績を出さないと廃部にされてしまうかもしれない、と告げる。4人の部員が次々と立ち去っていく中で、部長が箱を抱えて戻ってきた。中には演劇部の昔の資料と、上演したことのない台本が入っていた。すると不思議にも、マクベスの妻・ジュリエット・ハムレットという、シェイクスピアの作品の3人の登場人物が現れ、自分たちの物語を自分たちで上演させて欲しいと言った。部長が同意すると、彼らによるすばらしい上演が始まった。――この劇の脚本は非常に創意工夫に溢れている。コンテストの限界・審査委員のデタラメさ・学校の援助不足などを批判した上で、団員が自分たちの力で努力して向上していくにはどうしたら良いかを描いている。さらに重要なのは、この劇はメタシアターの特徴を兼ね備えることで、非の打ち所のない上演を実現していることである。
#ref(22shi-8.jpg,,図8 新北市立江翠国民中学の『完全特優手冊』,50%)
台中市立黎明国民中学の『京城謝少』(都の謝家の若旦那)は、謝家の若旦那が、悔い改めて生まれ変わるまでを描いている。内容は次の通りである――謝家の若旦那は酒と博打が大好きで、いつも悪友の楊と陳を家に呼び、酒を飲み博打をしていた。謝家の父親が帰宅すると2人はすぐにどこかに消え、若旦那は部屋で勉強しろと叱責される。若旦那は今まで何人もの先生を怒らせて辞められていた。父親は若旦那に、王府が六女の婿取りの相手にお前を選んだと言ったが、若旦那は家を出るのを嫌がった。若旦那は城西の店に飯を食べに行き、女店主がお勘定を求めると、若旦那はお金を持っていなかったので、城東の謝家にもらいに行くように言った。そこで店は人を遣ったが、お金を払ってもらえなかったため、若旦那に店員の服を着せ、勘定の代わりに半月の間働かせることにした。ある日、王府の六女が下女と一緒に店に食事にやって来て、若旦那の働きぶりを観察した。また別の日、楊と陳も店にやって来て、若旦那が病気だということなので、もうタダで飯を食ったり酒を飲んだりできない、と話した。六女と下女は再び店にやって来て食事をした。謝家の母親と使用人も、田舎者に扮装してやって来て、息子が真面目に働いているのを見て満足した。謝家の父親が店にやって来て、息子を家に連れて帰ろうとした。女店主が釈明すると、父親は息子と引き換えに銀を一錠渡したが、若旦那はあと2日あるからと言って帰るのを拒んだ。母親が父親に息子の意見を尊重しなさいと言って怒った。六女が進み出て謝家の両親に挨拶し、話は大団円に終わった。――この劇の創意工夫は、「天のまさに大任を斯の人に降さんとするや、必ず先ずその心志を苦しめ、その筋骨を労す(天が大きな任務をその人に与えようとする時は、必ずまずその心を苦しめ、その筋骨を疲れさせる)」(((訳者注)『孟子』巻十二・告子章句下に見える言葉。))という劇中の乞食の台詞のように、子どもに自分が好む未来を自分で探させるというテーマにあり、服装や化粧はすべて時代風にしていて、上演者の配置も非常に良い。
桃園市立南崁国民中学の『教室裡的范特西 Fantasy』(教室の中のファンタジー Fantasy)は、中学生が学校の勉強のプレッシャーで幻を見る話で、8人の男性と7人の女性によって上演された。内容は次の通りである――まず、西欧の地理の授業の時に、1人の男性生徒が烏に扮して女子生徒を驚かせ、別の1人の男子生徒がスーパーマンに扮して烏を倒し、女子生徒を救う。男子生徒は女子生徒が可愛くないと批判し、皆をつまらない気分にさせてしまうが、自分の満足する幻とはどのようなものかを皆が話しはじめる。すると女子生徒も男子生徒が格好悪いと言い、ピッチリしたズボンを穿いている先輩みたいなのが良いと言いだした。また女子生徒たちは、いつも親が干渉してきて、何かというと携帯電話を没収したりするのが嫌でたまらない、という話もしてくる。すると先生が教室に戻ってきて、その日の宿題を出し、また翌日は試験がたくさんあると言うと、男子生徒も女子生徒も、そんなにたくさんの試験は嫌だと言ったところで、授業終了の鐘が鳴り、すべては現実に戻った。――この劇の創意工夫は、成長の過程で必ず通過する、青少年の苦悩・幻想・反逆といった障害を、ミュージカルの形式で表現していることである。挿入された歌と踊りは話の展開を助けており、また「機車」(うっとおしい)、「白目」(空気が読めない)、「考北」(クソ)、「翻白眼」(白い眼で見る)といったスラングを多用することで、面白さを出している。
台北市私立華岡芸術学校の『Baby Shock』(Baby Shock)は、台湾で深刻な問題となっている堕胎について扱っている。内容は次の通りである――序幕で4人の天使が登場し、4人の妊婦が母親になることを楽しみにしている、と言う。天使Cは宇昕の娘に配置されるが、宇昕は妊娠を嫌がっていた。宇昕はセブンイレブンで働いていたが、たくさんの客から態度が悪いというクレームが入っていると、店長に口汚く罵られる。宇昕は否定したが、結局クビにされてしまう。友だちの玲玲が宇昕を訪ねて来た時、宇昕は母親から捨てられた過去を告白するが、玲玲は6週目に入った赤ちゃんを大事にするよう言う。学校のいじめっ子が仔猫を袋に入れて捨てようとしたので、宇昕が止めに入り、玲玲も出てきて宇昕を助け、さらに呉浩もその場にやって来た。天使Cは宇昕に寄り添っていたが、宇昕は小さい時に母親から捨てられた過去について話し、天使Cを堕ろしたいと言う。天使Cは宇昕に、過去は忘れよう、世界は美しいんだよと言い、離れる前に抱っこしてもらい、額にキスをしてもらった。天使Cが消えると、宇昕は行かないでと言って泣き叫んだ。玲玲は宇昕に、天使Cはまだお腹の中にいるよと言って慰めたが、そこに呉浩が現れ、父親に暴力を振るわれて家を追い出されたと言う。そこで宇昕は、2人で努力して子どもを養っていこう、と主張する。最後に、宇昕が子どもの時に捨てられた場面が再現され、上演が終わる。
高雄市私立中華芸術学校の『明路』(明路)は、台湾の2つの家庭の2つの世代が直面した社会問題を描いている。内容は次の通りである――話は、合唱隊の4人のメンバーが国連の「世界人権宣言」を朗読するところから始まる。ある朝、宜華の家と昌明の家ではそれぞれ朝食を準備していた。昌明の母親はベトナム国籍で、ベトナム料理をたくさん作った。昌明と宜華は、それぞれ朝ご飯を持って学校に行った。道でクラスメートが昌明のことをいじめて来て、お前の朝ご飯は臭いと言い、かれのベトナム人のお母さんをバカにした。宜華は、いじめは違法行為だと言って、クラスメートを激しく非難した。うなだれた昌明が道を歩いていると、麻薬の売人の3人組に目を付けられ、一緒に麻薬を吸わないかと誘われる。夜、宜華は昌明が麻薬を吸っているのを見つけ、違法行為だと言って強く怒った。昌明の両親が怒鳴り声を聞きつけてやって来て、息子が麻薬を吸っているのを知り、殴りかかるお父さんをお母さんが止める。売人たちは麻薬が踏みつけられたのを見て昌明父子に暴行を加え、お母さんが息子を守ろうとして殺される。宜華の両親が警察に通報し、昌明は後悔したがすでに遅く、最後は昌明が小さい時にお母さんに抱かれてベトナムの子どもの歌を歌ってもらった場面が再現される。
台東市国立台東高級商業職業学校の『Nia'a'izang 長・程』(Nia'a'izang 長・程)は、台東の&ruby(プユマ){卑南};族の子どもが誕生して成人になるまでの過程で行われる儀式を描き、劇全体が&ruby(プユマ){卑南};族の音楽・踊り・台詞・歌謡で構成されている。内容は次の通りである――最初に女性たちが男の赤ちゃんを囲んで「可愛い故郷」の歌をを合唱し、健やかな成長を祈願する。続いて男の子が成長していく過程で、青色の半ズボンを穿き、狩り・水泳・弓術・格闘などの競技を学んでいく。祖霊に力を与えてくれるよう祈ったあと、1つずつ成長の儀式を執り行い、少女たちが横でそれを見守る。母親の加護に感謝した後、&ruby(プユマ){卑南};族の少女たちが花輪を作る技術を学ぶことが示される。劇が終った後、青年たちが年長者たちを囲んで&ruby(プユマ){卑南};族の歌舞を行う場面では、文化の伝承の意義が示されている。
新北市私立荘敬高級工業家事職業学校の『探母』(探母)は、台湾の3つの世代の人々を描いている。内容は次の通りである――民国38(1947)年、軍人の建国が大陸から台湾にやって来て、艋舺で客に騙されていた小春に出会い、何度か文通したあと結婚する。建国はよく小春を連れて、宋と遼の戦いを描いた京劇の名作『四郎探母』を見に行ったが、小春はこれをいたく気に入り、崇蕭太后・佘太后・鉄鏡公主を尊敬するようになる。建国は晩年に大陸に戻ることを決め、息子が一緒に武漢に行き、そこで仕事を始めた。小さい時から祖母の小春に育てられた孫娘の小安は、小春の話を聞くのが好きだった。小安は高校生になった時、クラスメートたちと一緒に『探母』を上演し、大きな成功を収めた。――この劇の創意工夫は、小安と合唱隊が登場人物を紹介し、プロットや場所を説明するという変わった叙述方法を用い、また何人かの登場人物は上演者が掛け持ちで上演していることである。最後に全国演劇コンテストに進む場面は山場が多く、観客を魅了する。
*五、おわりに [#k8b278fd]
全国学生創作演劇コンテストの決勝大会は、コロナ禍による2年間の中止を経て、ようやく開催にこぎ着けた。ただし予選についてはこの2年間、各県市での開催は行われてきた。そのため、今年各県市を勝ち抜いてきた学校は、いずれも大きな盛り上がりを見せ、決勝に向けた準備を行った。10数日にわたる競争を経て、61校が入賞の栄誉を果たした。伝統的人形劇は全部で19校で、そのうち手遣い人形劇は9校・影絵人形劇は6校・糸操り人形劇は4校、また近代的人形劇は全部で26校で、そのうち手遣い人形劇は4校・影絵人形劇は11校・総合人形劇は11校、さらに舞台演劇は16校であった。優れた結果を出すことができたのは、(1)教育局と学校長の支持、(2)学外の優秀な芸人による指導、(3)優秀で創意溢れる脚本と上演、の3点が理由だと考えている。
**(1)教育局と学校長の支持 [#g4f0ec57]
学校長が演劇コンテストを全力で支持したことは、入賞獲得の主な原因である。もちろんその背景には、各県市の教育局の強力な支持も必要である。教育局が予算を確保して優秀な研究者や専門家を予選の審査に招き、それぞれの上演に改善意見をしてもらった上で、3月に再び研究者や専門家を各学校に招いて再審査を担当してもらうことで、上演をさらに完璧なものにしていった。この方法に関して全国で最も優れていたのは、桃園市と台中市の教育局である。
**(2)学外の優秀な芸人による指導 [#a8e384e5]
学校の中には、芸術や人文関係の教師を招聘したところもあった。これらの専門家が脚本を書き、上演者を選び、稽古を行い、舞台・照明・衣裳・化粧をデザインした。もちろんそうしたことを実現するには、保護者たちの支持も欠かせない。例えば、入賞した宜蘭市文化国民中学は指導教員の賴恩民が影絵人形劇にエネルギーを注ぎ、また宜蘭市復興国民中学の張綺仁や、新北市江翠国民中学の方彦婷は、舞台演劇に精通していた。これらの人々はいずれも台湾芸術大学演劇専攻の修士号を有している。このほか、高雄市中華芸術学校の舞台監督の張漢軒は、高雄師範大学上演芸術専攻の修士課程を卒業している。台中市葫蘆墩国民小学の雷暁青主任は、演劇が専門ではなかったが、2008年から脚本製作に従事し、翌年演劇研修に参加する機会も得て、監督としての研鑽を積んだ。こうした人々が主導的役割を果たしたことで、優れた結果を出すことができたのである。また学外から招聘した指導者は、伝統的人形劇や近代的人形劇の専門家が多数を占めている。例えば新興閣掌中劇団の6代目の鍾任樑は、宜蘭市孝威国民小学や新北市の高級中学などで長年にわたって指導にあたっている。高雄市錦飛鳳傀儡戯団の3代目の薛熒源とその妻の張雪香は、中学校ですでに10年あまり糸操り人形劇の指導を行って優れた成果を上げており、今回の入賞校もうち4校は薛団長の指導の賜物である。このほか、嘉義県蒜頭郷の黃献章は、高級農業職業学校の学歴しか持たないが、ネット上のコンテンツで糸操り人形劇を勉強し、人形の顔の喜怒哀楽の表情を強調する方法を作り出して、多くの学校で指導にあたり、入賞作を10数回勝ち取っている。桃園至善高級中学は、台湾芸術大学演劇専攻修士の藍忠文と、台北芸術大学第9回優秀学生を受賞した李明沢を招き、近代的人形劇の指導を依頼して、優れた成績を残した。
**(3)優秀で創意に富んだ脚本と上演 [#gc1424c1]
入賞した学校は、いずれも脚本と上演の創意工夫が優れていたことで、審査を勝ち取ることができた。脚本のテーマは、民間信仰・善悪の戦い・社会問題・家庭内暴力・郷土史・タイムスリップなど、非常に多彩である。伝統的な手遣い人形劇は、媽祖が霊験を顕して妖怪を退治するという話が多く、また『宝蓮灯』を原作とするものもある。伝統的な影絵人形劇は環境保護や善悪の戦いを扱う作品で、また伝統的な糸操り人形劇は歴史創作やタイムスリップなどがある。近代的人形劇は、家庭の温もり・家庭内暴力・校内暴力・原住民反乱・高齢者のロハス・昔と今の疫病の比較などをテーマにし、医療スタッフを讃えたり、原住民の成長や儀式を描いたりと、多種多様である。舞台演劇はさらに豊富で、仲間同士の助け合いを描いたり、中国と西洋の名作を対照させたり、演劇コンテストの創意工夫を揶揄したり、メディアの偽ニュースを批判したり、生徒が時間を守る大切さを説いたり、童話物語やネコとネズミの関係を描いたりと、様々なものがある。
創意工夫に富んだ上演作は、創意工夫に富んだ脚本を元に、教員と生徒が一致団結し、全力であたることで、勝利の栄冠を手にすることができた。今回入賞したチームを祝福しつつ、入賞を果たせなかったチームには次回はぜひ頑張って欲しいと、エールを送りたい。
**参考文献 [#uf0cbb36]
-&lang(zh-Hant){國立台灣藝術教育館,《103學年度全國學生創意偶戲比賽決賽秩序冊》,2014年。};
-&lang(zh-Hant){新竹生活美學館,《96學年度全國學生創意偶戲比賽決賽秩序冊》,2008年。};
-&lang(zh-Hant){石光生,《高雄縣立文化中心皮影戲館籌建專輯》,岡山:高雄縣立文化中心,1994年。};
-&lang(zh-Hant){2022年全國學生創意戲劇決賽特優作品61部。};