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- 『都市芸研』第六輯/北京潘家園所得芸能・映画資料目録 附:解説 へ行く。
- 1 (2008-01-10 (木) 14:04:23)
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北京潘家園所得芸能映画資料目録 附:解説†
RIHGT:千田 大介
#contetns
はじめに†
北京の東三環南路、潘家園橋付近に位置する潘家園旧貨市場は、1990年代半ばに自然発生的に形成された青空フリー・マーケットであるが、中国経済のバブル的発展が誘発した骨董収集ブームに後押しされて着実に規模を拡大し、今や中国最大規模の巨大蒐集マーケットにまで成長している。
1990年代半ば、草創期の潘家園は石印本・宝巻・影巻などの資料が安価かつ大量に入手できる場所として注目を集め、それらの資料を購入・収集した報告や目録が複数の日本人研究者によって発表されている。中国都市芸能研究会でも、数多くの皮影戯影巻を、潘家園で購入している。
それらの古書は次第に流通量が減少するとともに価格が高騰したため、2000年前後には研究者が個人で収集・購入するのは少々ためらわれるような状況になった。一方、同時期には解放初期から1980年代にかけて出版された書籍や档案の類が多く見られるようになった。北京旧城内の大規模再開発が本格化したことにともない、大量の不要になった資料が潘家園に流れ込んだものである。
筆者は、そのようにして潘家園に流出したと考えられる伝統演劇・映画関連の資料を、2000年以降に数次にわたって大量に購入した。それらには、日本国内には収蔵されていない書籍のほか、解放後の文化政策を研究する上で極めて有益であると思われる資料が数多く含まれている。
以下、目録に先立ち、それら資料の概略および学術的価値について概術する。
資料の概要†
前述のように、以下で紹介する資料は、いずれも筆者が2000年から2003年にかけて潘家園で購入したもので、合計730点、大半が伝統劇・映画等の台本である。
伝統劇台本は、2001年3月と2002年2月にまとまった量を購入した。前者はB5判の油印鈔本、後者は小型の活字本が中心で、いずれも中央人民広播電台旧蔵資料である。多くは1950~60年代の文革前の時期、いわゆる17年期のもので、一部に1980年代のものも含まれている。このほか、2002年の秋と2003年の夏に購入したものが十数部含まれる。
映画関連資料は2002年の夏にまとまって購入したものである。こちらも大半が17年期のもので、文芸映画の台本はさほど多くないが、ドキュメント映画や啓蒙・教育映画の台本が多数含まれる。また、映画に関連する技術の解説資料などもある。旧蔵者については判然としないが、表紙に「電影局」と書かれたもの(『“宝草”試種記』、C-scr-e-2)や、国家電影局に宛てた台本審査依頼の書簡がはさまったもの(『帯翅膀的媒人』、C-scr-e-9)が見られることから、国家電影局の関連機関で廃棄されたものが市場に流出したものと推測される。
このほか点数は少ないが、音楽・説唱芸能などの楽譜・台本や、ラジオ劇台本など見られる。
資料的価値†
これらの資料は、機関の移転や改組にともなって廃棄されたものと推測される。表紙に「不要」と記された資料が見受けられることがその証左となる。それらはラジオ放送や映画管理などの業務においては不必要だと判断された資料なのであろうが、しかし、学術研究上の立場からすると、有用な資料が多数含まれている。
映画関連資料†
映画の台本資料は、前述のように大半が17年期のものであり、しかもドキュメンタリーや教育・啓蒙映画が大半を占めている。数十年を経た現在では、ニュース資料的価値や教育・啓蒙的意味が失われているため、中国国内でVCD・DVDなどの形で再版される可能性は乏しく、また台本資料の入手・再版も望めないものであり、資料の希少性は高い。
教育・啓蒙映画では、農村の巡回上映で放映されたのであろう農業・牧畜などの知識を啓蒙するものが最も多いが、そのほかにも、衛生知識を啓蒙するもの、科学知識や地域・民族などを紹介するもの、さらには防空壕の堀りかたといった中ソ対立時期の時代性を移したと思われるものなど、さまざまなジャンルのものが含まれる。
台本以外では、映画を上映した際の観客の反応・問題点などをまとめた『観衆反映』(C-etc-11~13)が注目される。中国の映画は共産党のプロパガンダメディアの一つと位置づけられており、興行収入を目的とするものではなかった。しかし、制作側には観客の反応を調査して以後の制作にフィードバックして、プロパガンダや教育の効果を高める必要があり、そのために調査員や農村巡回上映スタッフによるレポートがまとめられたものと思われる。いずれも1964~65年にかけてのもので、当時の映画制作状況や上映状況を考察する上で貴重な資料であるばかりでなく、当時の科学知識教育の実態や農民・民衆の教育水準を理解する上でも恰好の資料であると言えよう。
伝統劇・芸能関連資料†
本資料には多くの地方劇台本が含まれる。蒲劇・河南曲劇などの地方劇に関しては、口述を整理した伝統劇目が多く含まれているが、それらの多くは排印本が刊行されておらず、閲覧・入手が極めて困難である。また、各地方劇の新作劇台本が数多く含まれるが、その大多数はいまや上演されることのないものであり、台本を収蔵する機関は中国にもほとんど無い。これらも17年期の地方演劇の実態を検討する上で、恰好の資料であると言えよう。
稿本、第~次修訂本など、定本完成以前のバージョンが多く見られることも特色として挙げられよう。例えば、『白毛女』はいわゆる八大革命様板戯の一つとして知られるが、X-jj-1の京劇版は「未定稿」であり、後に出版された排印本やスコアとの比較によって、様板戯の制作過程の一端が明らかになるものと期待される。様板戯としては京劇『沙家浜』(X-jj-26)も、1965年に滬劇から京劇に移植された最初期の版の油印本である。このほか、北方崑曲『文成公主』(X-bk-4~6)のように、第三次修訂排練本・油印本・排印本など、複数のバージョンが揃っているものも見られる。
台本以外では、朝鮮戦争の際の慰問団の活動を地域・芸能種類ごとにまとめた統計資料が注目される(表紙が失われタイトルが不明のため、目録中では『中国人民第三次赴朝慰問文工団報告』(X-etc-21)と仮称する)。
ラジオ放送と伝統芸能†
前述のように、本資料の戯曲関連資料の大半は中央人民広播電台の旧蔵に係るが、それらの中には放送審査の用紙がはさまったもの、あるいは直接書きつけられたものが見られる。中国において、番組・映画などの制作に先だって厳重な台本審査が行われていることが知られているが、その手順や方法は部外秘であり、断片的な情報は関係者の談話や証言で漏れ伝わってくるものの、審査用紙を実際に目にすることはほとんど不可能である。
放送審査コメントが附されたものは、三十数点見られる。簡単に「不用播」とだけ書かれたものもあれば、詳細に審査コメントが書かれたものもある。例えば、越調『父女倆』(X-hnyd-3)には、「中央人民広播電台文芸部戯曲組稿箋」と「中央人民広播電台文芸部戯曲組劇目審査単」の二種の審査用紙が附され、次のような審査コメントが見える。
&lang(zh-tw){這個戲思想性很不高。反面人物鳴鐘嫂厲害得害,氣勢上壓過被歌頌的正面人物鳴鐘。……建議不用。(編輯意見,66.7.2)
這個戲主要是寫個人和集體的關係的,思想性雖不很高,但也沒有原則性的錯誤。……我以為還可用一用,不是個壞戲。(重審,7.2)
暫可用。(7.3)
有人批評:這個戲的妻為了自留地糾纏不已……我都想這個問題。……不用了。(8.8)
康朱同意。(8.8)};
放送すべきでないとする意見に、二次審査でそれほど悪くはないとの修正意見が付き、一月を置いて再び審査がなされ、最終的に不採用が決まっている。
最初の意見では、悪役が手強すぎて、共産党の農業集団化に向かおうとする主人公を圧倒していることなどから「思想性」が低いと判断されているが、これは当時のラジオ放送で何が重視されていたのがを如実に物語るものであり、八大様板戯で集大成される革命現代劇の善悪二分的人物形象の系譜を考察する上でも興味深い資料である。また、中央の大メディアの放送審査が、如何に地方劇に対して監督・指導機能を発揮していたのかを、具体的に知ることができるし、審査用紙の様式から、審査が通常二段階ないしは三段階で行われたことなど、審査手順もわかる。
このほか、中央人民広播電台での放送資料として実際に使われたとおぼしい、手書きで歌詞を改めたり上演時間を記入した資料も多く見られる。
これらの資料をもとに、審査コメントと台本の内容とを対照研究したり、あるいはラジオ局による台本改訂の実態を精査したりすることで、十七年期のメディア政策の実態やその伝統劇に対する影響を具体的に解明できるものと期待される。
おわりに†
以上に紹介したように、本資料は閲覧・入手が困難であるという希少性のみならず、研究上の価値も大いに認められ、今後、演劇学にとどまらずメディア論・社会史・政治史などさまざまな立場から総合的に研究されるべきものであると考える。その全貌は、以下の目録をご参照いただきたい。
なお、本資料は個人所蔵に係るため、管理上の問題から、当面中国都市芸能研究会同人に向けて研究資料として公開し、しかるべき時期に図書館等に寄贈して一般公開するものとする。
凡例†
- 一 本目録は千田大介が北京潘家園で収集した伝統劇・伝統芸能・映画などの関連資料、約730点の目録である。
- 一 分類は、全体を戯曲・曲芸・歌劇・話劇・音楽・電影・広播・文史哲・其他の九種に大別し、それぞれ資料の性質に基づき下部分類した。
- い 戯曲劇種の排列順は、『中国戯曲劇種手冊』の掲載順に従った。
- ろ 映画資料は台本資料とその他に二分し、台本資料はさらに、故事片・記録片・教育片に分類した。
- 一 書皮・封面等が失われ題名がわからないものについては、[](ブラケット)内に仮題名を記入した。
- 一 タイトル後に「A」と記したものは2001年3月購入分、「B」と記したものは2002年2月購入分であり、いずれも中央人民広播電台の旧蔵に係わると思われる資料である。
- 一 形態情報については以下のように略記した。
油:油印本 排:排印本 復:カーボン紙コピー本 鈔:鈔本 洋:洋装本 簡:簡易製本本(ホチキスどめ、ペーパーファスナー製本等) 散:未製本
- 一 表記は繁体字で統一した。