『都市芸研』第二輯/山西省戯劇研究所所蔵皮影戯劇本目録稿

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山西省戯劇研究所所蔵皮影戯劇本目録稿

千田 大介

はじめに

今次の山西省現地調査では、太原市内に位置する山西省戯劇研究所を、8月19日と24日の二度にわたって訪問した。目的は、現地研究者との研究交流をはかることと、同研究所に収蔵される地方劇関連文献資料を閲覧することにあった。

山西省戯劇研究所は、筆者が前年に行った予備調査で訪問し、研究協力関係を築いていたが、初めてかつ短時間の訪問であったため、文献資料に関する調査は実施していなかった。

19日の訪問には、氷上・山下・戸部・千田が参加した。李運啓所長をはじめとする同研究所の主要メンバーと懇談し、同研究所についての説明を受けるとともに、地方劇の上演や文献資料の整理工作について話を伺い、今後の研究協力の可能性について話し合った。

24日の訪問では、同研究所の資料室に収蔵される山西省の伝統地方戯の台本資料を閲覧し、また同所に所蔵される山西省中部の晋中皮影戯、同南部の晋南皮影戯の台本の目録を作成した。

それらの台本の大半は研究所員による手抄本であり、管理上は档案として扱われるため、中華人民共和国国家档案法の制限を受ける。そのため、表紙の撮影や内容の閲覧・メモは認められたが、内容の複写はできなかった。

目録

以下は同研究所に収蔵される山西皮影戯台本の目録である。

今次の調査は、山西省戯劇研究所側の夏休み時期と重なってしまい、わずか半日足らずしか文献調査時間が得られなかった。このため、目録作成作業においては、全ての皮影戯台本を閲覧室に持ち出し、それらの表紙をデジタルカメラで撮影、帰国後その画像に基づきデータを取るという方法を採用した。

しかし、撮影者および機材の問題から不鮮明な画像が含まれてしまったため、一部の台本については目録の文字が正しいのかいささか不安が残る。また、一部の台本は表紙への情報の記入が十全ではなく、詳細に内容を調査しないとどの地域の皮影戯の台本であるか確定できない。整理番号についても、別途、同研究所図書室の手書き目録と付き合わせる作業が必要となる。

そこで、以上の目録は暫定稿とし、次回の調査時に不足している情報の補完を期すこととしたい。

劇種題目口述者・来源記録者重抄者日時
孝義皮腔板沙亭温世宏董鑑承孫愛華1983/3
孝義皮腔五岳図李正有李宏 1962/6/7
孝義皮腔対金鞭李正有董鑑承孫愛華1983/3
孝義皮腔青龍関李正有李宏 1962/6/21
孝義皮腔五鼠鬧東京李正有李宏 1962
孝義皮腔鎖陽関李正有李宏 1962/6
孝義皮腔火焼琵琶李正有董鑑承王林金1983/3
孝義皮腔汜水関李正有董鑑承劉玉香1983/5
孝義皮腔窃降書李正有董鑑承劉玉香1983/7
孝義皮腔五嶽図李正有董鑑承孫愛華1983/3
孝義皮腔鬧朝歌李正有董鑑承孫愛華1983/2
孝義皮腔佳夢関李正有董鑑承孫愛華1983/6
孝義皮腔澠池県李正有董鑑承孫愛華1983/6
孝義皮腔炮烙柱李正有董鑑承王林金1983/3
孝義皮腔文王逃関李正有董鑑承王林金1983/4
孝義皮腔斬殷洪李正有董鑑承王林金1983/5
孝義皮腔黄河陣李正有董鑑承劉玉香1983/5
孝義皮腔凍岐山李正有董鑑承劉玉香1983/6
孝義皮腔社稷図李正有董鑑承王翠蓮1983/5
孝義皮腔摘心楼李正有董鑑承王林金1983/7
孝義皮腔攅心釘李正有董鑑承王林金1983/7
孝義皮腔森羅陣李正有董鑑承王翠蓮1983/5
孝義皮腔五賢牌李正有董鑑承劉玉香1983/7
孝義皮腔八仙鬧東海李正有董鑑承王林金1983/4
孝義皮腔青龍関郝如山董鑑承王翠蓮1983/5
孝義皮腔朱仙陣郝如山董鑑承孫愛華1983/3
孝義皮腔火焼西岐郝如山李文孫愛華1983/3
孝義皮腔十絶陣郝如山董鑑承王林金1983/5
孝義皮腔斬侯虎郝如山董鑑承王林金1983/5
孝義皮腔九龍柱郝如山董鑑承王林金1983/7
孝義皮腔紂王降香郝如山董鑑承王林金1983/7
孝義皮腔訪賢郝如山董鑑承王翠蓮1983/5
孝義皮腔上崑崙    
孝義皮腔対金鞭    
孝義皮腔碧遊宮(賈門関)   1962/12/10
孝義皮腔破六陣    
孝義皮影斬黄袍    
孝義碗碗腔金玉釵穆銀根董鑑承王義1984/9
孝義碗碗腔九龍冠穆銀根董鑑承王義1984/8
孝義碗碗腔白洋河温世宏董鑑承王翠蓮1983/3
孝義碗碗腔九連珠温世宏董鑑承王翠蓮1983/5
孝義碗碗腔景星関温世宏董鑑承劉玉香1983/3
孝義碗碗腔紅燈計温世宏董鑑承劉玉香1983/3
孝義碗碗腔二征北海(観音堂)温世宏董鑑承王林金1983/7
孝義碗碗腔困淮南温世宏董鑑承劉玉香1983/3
孝義碗碗腔九華山温世宏董鑑承孫愛華1983/5
孝義碗碗腔恩陽関温世宏董鑑承王翠蓮1983/3
孝義碗碗腔清蓮帕温世宏董鑑承劉玉香1983/5
孝義碗碗腔両世音温世宏董鑑承王林金1983/6
孝義碗碗腔女忠孝温世宏董鑑承王林金1983/6
孝義碗碗腔三堂会審温世宏董鑑承孫愛華1983/6
孝義碗碗腔逼塵珠温世宏董鑑承劉玉香1983/7
孝義碗碗腔串龍珠温世宏董鑑承劉玉香1983/7
孝義碗碗腔十王廟温世宏董鑑承王翠蓮1983/3
孝義碗碗腔三首案王五保董鑑承王義1984/8
孝義碗碗腔陰陽差王五保董鑑承王義1984/8
孝義碗碗腔逼親賀恩成董鑑承王義1984/9
孝義碗碗腔大苦節図(連三本)焦亮妙董鑑承孫愛華1983/1
孝義碗碗腔龍鳳凰焦亮妙董鑑承王翠蓮1983/5
孝義碗碗腔華柳林焦亮妙董鑑承王翠蓮1983/3
孝義碗碗腔玉蓮花焦亮妙董鑑承王義1984/9
孝義碗碗腔遊河南李忠孝董鑑承劉玉香1983/5
孝義碗碗腔桃山洞李忠孝董鑑承劉玉香1983/5
孝義碗碗腔玄武楼李忠孝董鑑承劉玉香1983/3
孝義碗碗腔二龍山李忠孝董鑑承劉玉香1983/5
孝義碗碗腔香鈴串李忠孝董鑑承孫愛華1983/5
孝義碗碗腔大西漢温世宏董鑑承王林金1983/3
孝義碗碗腔双桂英焦亮妙董鑑承孫愛華1983/3
孝義碗碗腔琅玕琚    
 孝良巻馮慶栄   
 乞賢居馮慶栄   
 泗陽関山西省戯研室  1981/9
 荊紫関山西省戯研室  1981/9
晋南碗碗腔五女興唐(第一~四本)晋南蒲劇院   
晋南碗碗腔困淮南臨汾蒲劇院存本   
晋南碗碗腔還陽伝臨汾蒲劇院存本   
晋南碗碗腔錯報親臨汾蒲劇院存本   
 昭君出塞    
 莽当山    
 柳窰(壱本)    
 清素菴    
 白玉鈿    
 紫霞宮(前本)    
 玉燕釵    
 泰山廟    
 節義楼    
 売詩文    
 八戒招親    
 火雲洞    
 四姐下凡    
 忠孝図    
 金碗釵    
 抱靈牌    
 建修五台   1960/5/23
 観音堂    
 鬧天宮    
 反金寺    

収蔵の傾向

山西省戯劇研究所に所蔵される皮影戯台本は、一見してわかるように、孝義皮影戯のものが大半を占める。とりわけ、孝義皮腔皮影戯の主要レパートリーである『封神演義』故事が一通りそろっていることは特筆に値しよう。

口述者のうち、李正有および郝如山は玉清園出身の(『孝義県志』)皮腔皮影戯の芸人である。温世宏・馮慶栄・穆銀根・焦亮妙・李忠孝・王五保らは、手元の文献資料には見えない。

孝義皮影戯台本資料のうち、1983~84年にかけて重抄されたものには、いずれも「198x年x月于呂梁」と記されているので、呂梁地区に属する孝義において、現地機関が口述筆記した台本を重ねて書き写したものと思われる。以上の経緯については、今後、戯劇研究所および孝義にて確認する必要があろう。

おわりに

今回、目録は採録しなかったが、同研究所には山西にあまたある地方戯の台本資料が梆子腔系を中心に大量に収蔵されている。『山西地方戯曲匯編』に整理・収録されているものもあるが、大半は未整理の抄本として保存されている。

それらは、地方劇の形成・伝播研究の一級資料であるのみならず、たとえば皮影戯台本と同地域で演じられた人戯台本との比較分析など、さまざまな研究の可能性を秘めている。今後、同研究所収蔵資料の全貌を明らかにするとともに、戯曲・通俗文学研究などの方面から山西地方劇の文化史的性質を明らかにしていきたい。

本稿は、日本学術振興会科学研究費・基盤研究B「近代北方中国の芸能に関する総合的研究―京劇と皮影戯をめぐって―」(2002~2003年度・課題番号14310204)による成果の一部である。