『都市芸研』第二輯/2002年度新収皮影影巻目録

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2002年度新収皮影影巻目録

千田 大介

はじめに

伝統劇の上演スタイルや物語の系統、さらには地域性や言語的特質などを分析する上で最も基本的かつ重要な文献資料となるのが台本であることは、論をまたない。皮影戯研究においても、台本、冀東系皮影戯で言うところの「影巻」は、唱腔や物語のみならず劇団の状況や皮影戯への政策など、さまざまな情報をもたらしてくれる重要な資料である。

かかる見地から、中国都市芸能研究会では皮影戯研究の一環として、各地の皮影戯の影巻の大規模な収集・整理作業を進めている。本誌に連載している『皮影影巻解題』はその成果の一端である。

2002年度にも、科学研究費補助金を受けて、新たに影巻を収集した。以下は、その目録と簡単な紹介である。

目録

No.タイトル巻数
冀東
1.砸鑾駕1
2.雙掛印1
3.岳飛傳13
4.雙鎖山6
5.萬寶陣10
6.英唐國8
7.小英傑6
8.牛頭山7
9.包公案11
10.貍貓換太子2
11.八寶塔10
12.大隋唐31(缺第一卷)
湘南
1.秋江1
2.豬八戒背老婆1
3.通天河2
4.孫悟空三借芭蕉扇2
5.張文秀1
6.兩個縣官1
7.琵琶進宮1
8.段橋1
9.三官堂1
10.懲王記1
11.柳毅傳書1
12.大鬧天宮1
13.三打祝家莊2
北京西派
1.三家店2
2.六月雪1
3.打金枝2
4.下河東2
5.扇墳1
6.豬八戒背媳婦1
7.庚娘傳3
8.單刀會1
9.里龍傳1

解説

2002年度には、湖南皮影戯および北京西派皮影戯の影巻を収集することができた。

前者は、湖南省皮影劇団の上演台本を抄写したものである。湖南は皮影戯の一大中心地として知られる反面、研究報告や専著の数が多いとは言えず、具体像がなかなかにつかみにくかった。今回収集された影巻は、その資料の欠落を埋めるものである。物語は『西遊記』故事が大半を占めるが、湖南洞庭湖を舞台とする『柳毅傳書』が含まれる点が注目される。

後者は、北京市内在住の収蔵家に人を介して抄写を依頼したものである。北京西派皮影戯の影巻としては、車王府曲本や燕影劇などが知られているが、一世紀前には既に絶滅の危機に瀕した劇種であったため、北京東派=冀東皮影戯に比べて現存する作品数が少なく、このことが研究の一つの障害となっていた。しかし、今回収集された影巻には、『六月雪』のように京劇・梆子さらには冀東皮影戯『炎天雪』など、同じ地域・同じ時期に上演されたさまざまな劇種の台本が伝わっているものも含まれ、比較研究への途を開くものと期待される。また、北京西派皮影戯の影巻は継続して抄写を依頼しており、2003年度以降も一定数の収蔵が見込まれている。

なお、これらの影巻は整理・研究を終えた後、慶應義塾大学メディアセンターに寄贈・公開する計画である。

本稿は、日本学術振興会科学研究費・基盤研究B「近代北方中国の芸能に関する総合的研究―京劇と皮影戯をめぐって―」(2002~2003年度・課題番号14310204)による成果の一部である。