『都市芸研』第三輯/2004年夏期調査の日程と概要

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2004年夏期山西省・陝西省現地調査の日程と概要*1

千田 大介

はじめに

今次の調査に参加したのは、氷上・二階堂・山下・千田の四名である。氷上・山下・千田(以下、本隊)は全行程を共にし、二階堂は運城を拠点とした宗教施設調査のみに参加した。

1.日程

2004.8.22本隊北京より太原に移動
23本隊午前:山西省戯曲研究所訪問
午後:孝義市にて、皮腔皮影戯調査
二階堂西安より入国
24本隊・二階堂午前:それぞれ運城に移動
午後:運城関帝廟見学
25永楽宮・常平関帝祖廟等見学
26本隊西安に移動
二階堂西安に移動後、北京へ
27本隊華陰県にて、老腔皮影戯調査
28本隊華県にて、碗碗腔皮影戯調査
29本隊礼泉県にて、弦板腔皮影戯調査
30本隊北京へ

2.山西省調査概要

(1)山西省戯曲研究所

同研究所では、現在、山西省戯劇文物文献データベースの構築作業を進めている。同研究所が所蔵する、文献・博物資料の総合目録オンラインデータベースであるが、一部資料についてはオンライン公開する予定であるという。完成の暁には、同研究所所蔵伝統劇資料へのアクセシビリティーが格段に向上することが期待される。

待望久しい『山西地方戯曲彙編』皮影・木偶巻は、訪問時にはまだ完成していなかった。2004年秋には刷り上がる予定とのことであるから、本誌が刊行される頃には刊行されていることと思われる。

同研究所ではこのほか、山西省の伝統劇の劇目と解題とをまとめた『山西戯曲劇目考略』といった書籍も、刊行に向けて準備を進めているという。

(2)孝義市

晋中皮影戯の中心地として知られる孝義市には、古くからおこなわれていた皮腔と、清末に陝西より伝播した碗碗腔、二種類の皮影戯がある。しかし、現在、孝義市皮影木偶芸術博物館の皮影劇団などではもっぱら碗碗腔がおこなわれており、皮腔皮影戯は絶滅に瀕している。

今回訪問調査した武海棠氏(66)は、数少ない皮腔皮影戯の老芸人である。武氏は清末当地に存在した皮影・木偶劇団、二義園を経営していた一族であり、既に六世代にわたって皮影戯に従事している。

今次の調査では、孝義市郊外の必独村の武氏宅を訪問し、武海棠氏の経歴・家系、劇団の変遷、旧時の具体的な上演状況について聞き取り調査をおこない、あわせて武家班、および2002年度に訪問調査した梁全民氏による、碗碗腔・皮腔皮影戯の上演を鑑賞・記録した。

上演者

唱・操作
梁全民(73)・田生蘭(62)・武海棠・武愛屏(39)
鼓板
武偉偉(23)
琴師
武海花(40)
伴奏
武建平(37)・于雲平(38)

上演演目

  • 碗碗腔
    • 「桃花記」(唱・操作:梁全民・田生蘭)
    • 「収五毒」(唱:梁全民、操作:田生蘭)
    • 「五賢牌・選段」(唱・操作:武愛屏)
  • 皮腔
    • 「鬧朝歌」(唱・操作:武海棠)
    • 「四表四唱」(唱・操作:武海棠)
武家班の上演

(3)運城市

河東地域の中心都市である山西省運城市を拠点として、同市近郊に分布する宗教施設を訪問・調査した。

a)解州関帝廟

関羽の出身地である運城市解州鎮の同廟は、全国最大の関帝廟として知られている。同廟の雉門は、本殿に面した側の階段の上に板を渡して舞台とする、所謂「過路戯台」になっており、保存状態も良好である。

解州関帝廟雉門

b)永楽宮

運城市芮城県龍泉村。呂洞賓の出身地とされる、道教全真教の三大祖庭の一つ。現在の廟宇は、三門峡ダムの建設にともない、1950年代に移築されたもの。多数の元代の壁画が保存されていることでも知られる。元代白話文碑を含む、多数の碑刻が保存されている。

今回の調査で、清代の建築である宮門が、過路戯台構造になっていることを確認した。

永楽宮過路戯台 階段上部に板を渡すための切れ込みがある。

c)五龍廟

永楽宮の西の農村にある。清代の小戯台が現存するが、前面には壁と扉がしつらえられ、農家の倉庫として利用されているようであった。

五龍廟戯台

d)常平関帝祖祠

解池の南、解州関帝廟の東数キロに位置する。関羽の祖先を祭ったものである。建築・鋳鉄像の多くは明清代のもの。

3.陝西省調査概要

今次の陝西省現地調査に関しては、現地の研究・工作者である、陝西省民間芸術劇院の楊飛・李淑文夫妻に、劇団や芸人との連絡などの手配を依頼した。

現地調査では、今後の継続的な調査をにらみ、各地域の皮影戯の概略を把握することに主眼を置いた。このため、インタビューの質問項目は、芸人の経歴、劇団の変遷、上演方式と環境などにとどめた。

なお、以下に記す上演者名・役割は、鑑賞時に劇団員もしくはその家族に書いてもらったものを、そのまま転記したものである。

(1)華陰県

陝西省で最も歴史が古いとされる、華陰老腔皮影戯の芸人、張軍民氏(55)宅を訪問してインタビューを実施し、実演を鑑賞・記録した。また、張氏が所有する台本の題目を記録し、一部台本については全編を撮影した。

劇団

華陰県老腔皮影芸術団

上演者

演唱
張軍民(55)
板胡
劉亜倉(53)
敲板
李海泉(52)
簽手
衛興保(63)
後曹
李月明(60)

上演演目

「虎牢関」、「薛仁貴月下表功」、「臨潼闘宝」、「王文秀遊花園」

華陰老腔皮影戯

(3)華県

老腔に対して時腔とも称される、碗碗腔皮影戯について調査した。訪問地は、華県呂家塬村。

インフォーマント

呂重徳(61)

劇団

呂重徳興進皮影社

上演者

前手
呂重徳
扡手
劉正宏(60)
二胡・幇扡
劉華(62)
硬弦
劉興文(55)
後槽・鈴鈴
劉建平(40)

上演演目

「売雑貨」、「火焔駒・打路」、「金碗釵・供水」、「卜浪沙・撐船」、「刀劈韓天化」

呂重徳氏

(3)礼泉県

西安の西北、咸陽市礼泉県は、陝西西路皮影戯の代表的声腔である弦板腔の発祥地である。弦板腔が形成されたのは清末民初であるが、解放後に上演・演唱方式などが改革されている。調査地は、同県五都村。

同地の芸人である劉璟氏(52)への聞き取り調査および実演鑑賞・記録をおこなうとともに、劉氏が所蔵する台本50部余りを購入した。その詳細については、山下一夫氏の報告をご参照いただきたい。

劇団

劉璟弦板腔皮影社(史徳皮影社、新声皮影社合同上演)

上演演目:演唱者

「関羽取長沙」:劉璟、「鷄爪山」選段:劉建桂(40)、「孫夫人祭江」:劉文侠(40)、「黄雀寺・降香」:馬春萍(39)

劉璟氏へのインタビュー

おわりに

以上、今次の現地調査の概略について報告してきた。はじめにも書いたように、これはあくまでも速報的な報告であり、現在、今次の現地調査で得られた情報の整理・考察を鋭意進めているところである。その成果は、遠からず本誌誌上にてご報告できることであろう。


*1 本稿は、日本学術振興会科学研究費・基盤研究B「近代北方中国の芸能に関する総合的研究――京劇と皮影戯をめぐって――」(平成14~16年度・課題番号14310204)による成果の一部である。

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